第4章

山崎絵麻の視点

一週間が過ぎた。

クローゼットの前に立ち、指を滑らせていく。いつものセーターやブラウスを通り過ぎ、隅で指が止まった。黒のベルベット。深いVネック。背中が大きく開いた、バックレスのデザイン。スリットは太ももの半ばまで大胆に切り込んでいる。

そのドレスを引き出し、鏡の前で体に当ててみる。

彼の前でこんなに大胆な服を着たことなんて、この三年間一度もなかった。

今夜、それを変える。

七時。ドレスのジッパーを腰から肩甲骨のすぐ下まで引き上げる。鏡に映る自分は、ほとんど別人だった。剥き出しの鎖骨、あらわな肩、そして背中がすべて晒されている。振り返ると、生地が光を捉え、動くたびにスリットから脚が覗く。

黒のヒール。パールのイヤリング。髪は首筋を見せるように低く結い上げた。ネックレスはつけない。このネックラインが、それ自体で雄弁に語っているから。

階段を一段降りるごとに、ヒールの音が木の床に響く。

リビングでは、拓也がカフスボタンを留めているところだった。黒のスリーピーススーツ。彼が顔を上げる。

息を呑む。

『クソッ。なんだその格好は? あのドレス……何もかも見えちまう。彼女の肩。あのネックライン。見るな、クソ、見るんじゃねえ。だが、背中が……彼女が振り返った時、背中が全部、剥き出しだった。誰もが見る。会場にいる男全員が、彼女をじろじろ見るだろう。俺の上着を脱いで、彼女を隠してしまいたい。だが、そんなことをしたら彼女は嫌がるだろう。俺にそんな権利はない。でも、マジで、綺麗すぎる。なんで今夜、こんな格好を? 誰かのためか?』

「どうかしら?」私はゆっくりと回ってみせる。ドレスが体の動きに合わせて揺れ、さらに太ももが覗く。

彼の喉が動く。「いいんじゃないか。別に普通だ」

間が空く。

「もう行こう」

彼は素早く背を向け、車のキーに手を伸ばす。その手は震えていて、キーを落としそうになっている。耳が真っ赤に染まっていた。

私は微笑む。

完璧。

車の中が、いつもより狭く感じる。拓也はハンドルを握りしめ、視線を前方に固定している。私はシートベルトをしようと身を乗り出す。ネックラインがさらに深く下がる。わざとベルトがうまくかからないようにして。

「手伝ってくれる?」

「……自分でやれ」絞り出すような声だった。

結局、ベルトは自力で締め、それからドレスを直すふりをする。裾を引っ張って整えるように見せかけて、本当はもっと脚を見せつける。

ハンドルの上の彼の指の関節が白くなる。

「エアコン、強くしてくれる? なんだか暑くって」

その動きで胸元がはだけ、彼からもっとよく見えるようになる。

「ああ。わかった」

彼はエアコンを最大風量にする。私のためじゃない。彼自身のために。運転中、彼は固く顎を食いしばったまま、数秒おきに喉を上下させていた。

窓の外を、B市の景色が流れていく。

私は満足して、シートに背を預けた。

拓也は今にもハンドルをへし折りそうだ。

ボールルームはきらびやかだった。クリスタルのシャンデリア、シャンパンタワー、そしてタキシードやドレスに身を包んだゲストたちで溢れている。私たちが入っていくと、会話が途切れ、いくつもの視線がこちらを向く。

私に、向かって。

入って五分もしないうちに、上田さんが近づいてきた。七十歳。この会場で最も古参の投資家の一人だ。彼は私の手を取る。

「山崎夫人、今夜は実にお美しい。山崎くんは幸せ者ですね」

彼の視線が下がる。私の胸に留まる。心の中で数える。丸五秒。

彼は私の手を放そうとしない。

少し離れた場所で、拓也がシャンパングラスを握る指の関節が白くなっている。

「上田さん」拓也が凍りついたような声で隣に現れる。「取締役会の報告書は、もうお済みですか?」

上田さんは私の手を離し、咳払いをした。

カクテルアワーの間、営業部の若い男の子が飲み物を持ってきてくれた。どう見ても二十五歳より上には見えない。やけににこやかだ。食事までには、財務部の佐藤さんが話しかけてきた。彼の手が、私の椅子の背もたれに置かれる。さりげなく。さりげなさすぎるくらいに。

私は右隣の投資家と話そうと体を向ける。偶然を装って、彼の腕に触れる。

部屋の向こう側で、拓也の顎に力がこもるのが見えた。

その後、私は投資マネージャーが言った何かに笑っていた。三十代で、見た目も悪くない。明らかに私にいいところを見せようとしているのがわかる。

部屋の向こうから拓也を観察する。彼は取締役会のメンバーたちと話している。シャンパンを片手に、会話に夢中になっているように見える。

でも、彼の視線は数秒ごとに私へと滑ってくる。

顎は引き締められ、グラスを握る指の関節は白くなっている。

まさに、私が望んだ通りの反応。

八時半。森本輝が歩み寄ってくる。IT企業の創業者で、三十代前半。つい最近、経済誌の何かのリストに載ったばかりだ。イケメンで、独身。

「山崎夫人、一曲いかがですか?」

私は拓也に目をやる。彼は三メートルほど先で、二人の取締役会メンバーと会話の真っ最中だ。彼はこちらを見た。完璧な社交用の笑みを浮かべて。

「どうぞ。絵麻はダンスが大好きなんです」

『駄目だ。断れ。疲れたと言え。何でもいい。そいつと踊るな。腰に手を回される。近くに立たれる。殺してやる。なんで俺は今、どうぞと言ってしまったんだ? なぜ断れない? 俺に権利がないからだ。彼女は本当は俺のものじゃない。他の男と踊るのを止めることなんてできない。でも、止めたい。もう、彼女を俺のそばに引き寄せて、こいつは俺のものだと皆に告げたい。でも、できない。俺にそんな資格はない』

「では、行きましょうか」私は立ち上がり、森本に微笑みかける。

スローな曲。森本の手が私の腰に置かれる。ダンスの標準的なポジションだ。

でも、感じる。拓也の視線が、私の背中に突き刺さるのを。

「山崎さんは今夜、あまり楽しそうじゃありませんね」森本が耳元で囁く。

私は静かに笑う。「そうかしら? 気づけませんでしたわ」

部屋の向こう側、拓也はバーカウンターにいる。上田さんが何やらとりとめもなく話しているのを聞いているふりをしている。

彼の意識は、すべてダンスフロアに集中していた。

森本の手が、わずかに下へ移動する。音楽に合わせているだけかもしれない。そうじゃないかもしれない。

『あいつの手が、今、下に動いた。森本の手が……もういい。我慢の限界だ』

拓也が動いた。

大股で四歩、彼はフロアを横切ってくる。

「割り込んですまない、森本さん」氷のような声だ。「妻が疲れたそうです。我々はこれで失礼します」

疑問形ではない。断定だ。

森本は手を離す。「ああ。そうでしたか。おやすみなさい、山崎夫人」

拓也の腕が、私の腰に回される。強く。ほとんど乱暴なくらいに。私をダンスフロアから引きずり出すように。

「拓也、あなた、いきなり――」

「車で話す。今すぐだ」

『もう理性が飛ぶ寸前だ。何時間も、他の男たちが彼女に触り、話し、笑わせるのを見ていた。気にも留めないふりをして、馬鹿みたいに突っ立っていた。でも、気にしてる。クソッ、死ぬほど気にしてるんだ。彼女は俺の妻だ。俺の。でも、嫉妬していることさえ認められない。そもそも彼女は最初から、本当の意味で俺のものじゃなかったからだ』

廊下に出ると、静かだった。拓也は私の腰を掴んだまま、廊下をほとんど引きずるように進む。指に力がこもっている。顎は食いしばられ、喉が上下している。

彼は、震えていた。

車に着くと、彼は手を離した。「乗れ」

私のためにドアを開ける。私を見ようとしない。

ドアが乱暴に閉められ、エンジンがかかる。

沈黙。

さっきよりも重く、息が詰まるような沈黙。

拓也はハンドルを、まるで締め殺そうとするかのように握りしめている。指の関節は骨が浮き出るほど白く、顎の筋肉がぴくぴくと痙攣しているのが見える。呼吸が速すぎる。

『落ち着け。クソ、落ち着くんだ。お前に怒る権利はない。彼女は誰と踊ったっていい。普通の付き合いだ。お前はただの、書類上の夫なんだから。でも、書類上だけなんて嫌だ。俺は……黙れ。お前に権利はない。お前は彼女を買ったんだ。彼女の父親の危機を利用して。嫉妬する資格なんてない。彼女から何かを得る資格なんて、何ひとつない。でも、嫉妬している。気が狂いそうなほど、クソみたいに嫉妬している』

五分が過ぎる。街の灯りが窓の外を流れていく。

私は座席で向き直る。「さっき、嫉妬してた?」

彼のグリップの下で、ハンドルが軋む。喉がごくりと大きく動く。顎の筋肉がひきつった。

「してない」

三秒の沈黙。

「考えすぎだ」

『嫉妬? 嫉妬だと!? 俺はあそこで、もう少しで殺人を犯すところだったんだぞ!』

私は背もたれに寄りかかり、流れていく光を眺めることにした。

抑えきれない。

私の唇が、弧を描いた。

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