第6章
山崎絵麻の視点
リビングの静けさが重い。肘掛け椅子に丸まって本を広げているけれど、もう十分もページをめくっていない。向かいのソファには拓也が座り、財務報告書を読むふりをしながら、手にしたタブレットを光らせている。
その指が、何度もタブレットの縁を強く握りしめる。数秒ごとに、彼の視線がちらりと私に向けられ、すぐにまた下へと戻される。
本を閉じる。立ち上がる。
「着替えてくる」
拓也は顔を上げない。「わかった」
階段を上り、主寝室のクローゼットへ直行する。普段着を通り過ぎ、一番下の引き出しを開ける。そこには、値札もついたままの、深い青のビキニが畳んであった。この旅行のために...
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