第2章
指が画面の上で止まる。見てはいけない。そんなことは分かっている。
それでも、私はタップしてしまった。
チャット画面が読み込まれる。メンバーは三人。宏樹、美咲、そして翔太。
履歴を遡る。すぐに手が震え始めた。
私の写真があった。エプロン姿で、髪は乱れ、額には汗が滲んでいる。宏樹が投稿したものだ。
キャプションにはこうある。「典型的な野暮ったい、くたびれた主婦」
その下に翔太の返信。「あの老いぼれ魔女の飯、マジでクソまずい」
美咲の返事。「そんなこと言っちゃダメよ。家では食べるのを少しにして、美味しいもの食べに行きましょう」
さらに写真を、冗談を、スクロールして読み進める。すべて私に関するものだ。
そして、私は「それ」を見てしまった。
翔太のメッセージ。「あいつ、いつ死ぬの? あいつさえ死ねば、お父さんは美咲さんと結婚できるのに」
宏樹はそれに、親指を立てた「いいね」のスタンプで返信していた。
誰かに胸の上に巨岩を乗せられたような圧迫感があった。
息ができない。画面上の文字が滲んで混ざり合う。
八歳の息子が、私の死を望んでいる。そして父親である夫が、それを肯定している。
玄関のドアが勢いよく開いた。
廊下に笑い声が響く。宏樹の声、美咲の忍び笑い、翔太の興奮したおしゃべり。何かを言い合い、一緒に笑っている。
私を見た瞬間、彼らの会話が止まった。
私はソファに座ったまま、iPadを手に持っていた。
翔太の視線がiPadに釘付けになる。彼の顔から血の気が引いた。
「それ、僕の!」翔太が叫んだ。
彼は突進してきて、怪我をしていない方の腕を伸ばした。私は反射的にiPadを高く掲げた。
彼は飛びつき、無事な手で掴みかかってくる。「返せよ!」
「翔太、腕が……」私は彼がまた怪我をするのではないかと心配になり、身を引いた。
彼はさらに強く引っ張った。iPadが私の手から滑り落ちる。
翔太はそれを抱え込みながら、よろめいて後ろに下がった。
次の瞬間、彼はiPadを高く振り上げ、私の頭に叩きつけた。
額に激痛が走った。部屋が回転する。手足の感覚が麻痺していく。
「人のもの勝手に見る権利なんてないだろ!」翔太が喚き散らしている。
額に手を当てると、濡れていた。
「翔太……」声が震える。「あなた……」
その瞬間、感じたのは四肢に広がる無力感だけだった。心臓が強く締め付けられる。これが本当に私の翔太なの? 命よりも大切に思ってきたあの子なの?
ようやく宏樹が動いたが、私の方へ駆け寄ってくることはなかった。
彼は私の横を通り過ぎながら言った。「薬でも塗っとけ」
「宏樹……」顔を伝う血を感じながら彼を見上げる。「あの子が私をぶったのよ」
「翔太に悪気はなかったんだ」彼の声は平坦で、退屈そうだった。「お前が勝手に人のものを取るからいけないんだろ」
私の中で、何かが音を立てて壊れた。
私は立ち上がった。全身が震えている。「グループチャット、見たわよ」
宏樹が凍りついた。
「全部見たわよ!」私の声が裏返った。「『魔女のいない楽園』。そう呼んでるんでしょう。私をのけ者にした、あなたたちの小さなクラブの名前!」
「お母さん、僕の勝手に見たの――」翔太が口を開く。
「私の写真を晒したじゃない!」私は叫んでいた。「私のことを野暮ったい、くたびれた主婦だって! 私の料理を馬鹿にして! あなたたちは――」
「由美子、落ち着け――」
「落ち着けるわけない!」涙が頬を伝い落ちる。「あなたのために全てを捨てたのよ! 絵も! キャリアも! 初の個展だって決まっていたのに、あなたが必要だと言うからキャンセルしたのに!」
宏樹の顎に力が入る。「お前は物事を大袈裟にしてるだけだ――」
「息子に『死ねばいい』なんて言わせてるくせに!」私の声は完全に崩壊していた。「あの子は私が死ねば彼女と結婚できるって言ったのよ! それにあなたは『いいね』したじゃない!」
美咲が翔太の肩に手を置いた。まるで守るように。まるで彼女こそが本当の母親で、私が脅威であるかのように。
「白川さん、文脈を無視して解釈するのは――」
「文脈?」私は笑ったが、それは嗚咽のように響いた。「これのどこに文脈があるのよ? 『いつ死ぬのか』という言葉を、どう解釈すれば文脈が変わるっていうの?」
「ヒステリーを起こしてるだけだ」宏樹が冷たく言い放つ。
「あの子に会うために四年も戦ったのよ!」私は絶叫していた。「四年も! 生まれた瞬間にあの子を取り上げて! 産後うつを理由に私を追い詰めて! やっと息子を抱けた時には、あの子は私を突き飛ばした。あなたが私を憎むように吹き込んだからよ!」
「由美子――」
「憎しみのない目で見てもらえるようになるまで、二年かかった!」胸が激しく上下する。「それなのに、あなたが彼女を連れ込んだ。彼女が全てを台無しにしたのよ。またあの子を私に反抗させた!」
「ひどいです」美咲が静かに言った。「私はただ、手助けをしようと――」
「手助け?」私は彼女に向き直った。「私の知らないところであの子にチョコを与えて! 私の絵はゴミだと言い聞かせて! 私を嘲笑うためだけの秘密のチャットを作って!」
「被害妄想もいい加減にしろ」宏樹の声は氷のように冷たくなっていた。「だから翔太は緊急連絡先を変えたんだ。今の自分を見てみろ。わめき散らして、泣き叫んで。完全に自制心を失ってる。まるで頭のおかしい女だ」
その言葉は、平手打ちのように私を打った。
「私はおかしくなんてない」私はそう囁いた。
「そうか?」宏樹は私を指差した。「まともな人間はそんな姿じゃない」
翔太は目を丸くして、美咲にさらに身を寄せた。まるで私が怪物であるかのように。
「白川さん、お願いです」美咲の声はとても落ち着いていて、理性的だった。「この子が怯えています。翔太を怖がらせているのが分からないんですか?」
三人がそこに立っている。結束して、私を悪役でも見るような目で見つめている。
まるで、私だけが問題であるかのように。
息ができない。胸があまりにも痛くて、心臓が止まってしまうのではないかと思った。
宏樹がジャケットを掴んだ。「行くぞ」
「え?」
「翔太と美咲を連れて飯を食ってくる」彼の声は氷点下だった。「お前は頭を冷やせ」
私の声が震えた。「結婚式の誓いを覚えてないの? あなたが私に約束したことを」
彼は答えなかった。ただドアに向かっただけだ。
「外で食べてくる。お前は一人で落ち着くんだな」
翔太が慌てて後を追う。ドアのところで、彼は振り返った。
その顔は、嫌悪感で歪んでいた。
「大っ嫌いだ!」彼は叫んだ。「あんたなんかより、美咲さんがお母さんだったらよかったのに!」
ドアが激しい音を立てて閉まった。
