第1章
私が異国の地で孤独に死を迎えた時、私の恋人は別の女とスポットライトを浴びていた。
彼は、私がゼロから育て上げた男だ。五年前、大学を出たばかりで一文無しの孤児だった彼を拾った。「有名になりたい、アイスホッケー界の頂点に立ちたい」と彼は言った。その見返りとして、彼は五年間、私の恋人を演じた。
私は彼に最高のコーチ陣を用意し、アイスホッケークラブを丸ごと買収して彼をエースに据え、あらゆる人脈を駆使してMVPの座へと押し上げた。
だが、彼は私が与えるすべてを享受しながらも、「商業的価値に傷がつくから」と、私たちの関係を公表することを拒んだ。女子アナやモデルと浮き名を流してタブロイド紙を賑わせることはあっても、私の存在だけは誰にも知らせようとしなかった。
世界中に生中継されたインタビューで、彼はこうすら言い放ったのだ。「金に物を言わせるだけのオーナーなんてつまらないですよ。アイスホッケーは実力がすべての世界ですから」
それなのに――なぜ彼は、私の死を知った時、あんなにも狂乱したのだろうか。
かかりつけの主治医から余命三ヶ月から半年と告げられた時、私の心にはむしろ、すべてが報われたような静けさが広がっていた。
不治の遺伝性疾患。母も同じ病でこの世を去った。いつかこの日が来ることは分かっていた。だが、まさかこれほど早いとは。
「痛み止めを出してください」
私は立ち上がり、ハンドバッグを整えた。
「それと、私の病状は極秘でお願いします。誰にも言わないでください。彼にも、絶対に」
病院を出ると、すでに運転手が車を回して待っていた。後部座席に乗り込んだ途端、スマートフォンが数回震えた。広報担当からの緊急メッセージだった。
「芦原さん、もう揉み消せません。森山拓也とあの女子アナのトレンド入りから二時間が経過しました。相手側は確実に工作員を買っています。本人は未だに釈明を出していませんが、このまま火消しを続けますか?」
私は添付された動画をタップした。
リンクの上で、キャプテンを示す『C』の入ったユニフォーム姿の彼が、その女の腰を抱き寄せて氷上を滑っていた。女は甘ったるい笑みを浮かべ、彼にぴったりと寄り添っている。カメラがズームすると、彼の顔にはひどく甘やかで優しい微笑みが浮かんでいた。
あんな彼の笑顔を向けられたのは、もう随分と昔のことだ。
コメント欄はすでに炎上状態だった。お似合いだと囃し立てる者、プレイボーイだと非難する者、ただの取材だと必死に擁護するファン——三者が入り乱れている。
私は動画を閉じ、返信を打ち込んだ。
「もういいわ。彼の好きにさせて」
それから彼に電話をかけた。一度、二度、三度――すべて留守番電話に接続された。
運転手がルームミラー越しに私を窺った。
「芦原さん、森山さんはほんの火遊びのつもりなのでしょう。彼はまだ若いですし、あの手のマスコミは常に彼を取り巻いています。彼の心の中には、間違いなく芦原さんが一番にいるはずです」
「彼はもう二十八歳よ」
私はシートの背もたれに寄りかかり、静かに目を閉じた。
「十八歳の子供じゃない。これからはもう彼を迎えに行かなくていいわ。自力で帰らせて」
運転手は一瞬言葉を詰まらせたが、結局何も言わなかった。
帰宅してしばらくすると、ようやく彼からの着信があった。
「ごめんごめん、今着信に気づいたよ」
電話の向こうは騒がしく、歓声や笑い声が飛び交っていた。
「今日も勝ったからさ、チームのみんなで祝勝会やってるんだ。帰り遅くなるから、夕飯は待たなくていいよ」
私は沈黙した。
電話越しの彼も数秒だけ黙り込んだ。
「遥香?」
「ええ」
私は窓の外で次第に暗くなっていく空を見つめた。
「分かったわ。早く帰ってきなさい」
通話を切った後、私はソファに座って彼を待った。深夜になるまで、ずっと。
午前一時、ようやく玄関のドアが開いた。
彼は入ってくるなり愚痴をこぼし始めた。
「ねえ遥香、どうして運転手をよこしてくれなかったの? 俺がまた何か悪いことした? こんな時間にタクシーを捕まえるのがどれだけ大変か知ってるでしょ」
彼はこちらへ歩み寄り、いつものように私を抱きしめようとした。私はその腕を押し退けた。
「シャワーを浴びてきて」
彼はきょとんとした後、自分の匂いを嗅ぎ、肩をすくめてバスルームへと向かった。
シャワーから上がってきた彼は、腰にバスタオルを巻いただけの半裸姿だった。確かに彼の肉体は美しい。くっきりと浮かび上がる筋肉のラインに、広い肩幅。この五年間の過酷なトレーニングによって造り上げられた、完璧なアスリートの体躯だ。
出会ったばかりの頃は、竹竿のようにひょろひょろだったことを今でも覚えている。それが今や、リーグで最も注目を集めるMVP候補選手なのだ。
彼は私を後ろから抱きすくめ、頬にキスを落とした。濡れた髪が私の首筋をくすぐる。
「怒らないでよ」
私の肩に顎を乗せ、甘えるような声を出した。
「俺が悪かったって。次は絶対にこんなことしないから」
五年間。スキャンダルが出るたびに、彼はこうやってスキンシップと甘い謝罪で私の機嫌を取ろうとしてきた。私は彼の最も惨めな姿を知っているし、最も苦しい時期も共に乗り越えてきた。だからこそ、そのたびに私は絆されてしまっていた。
しかし、今回は違う。
私は彼を突き放し、脱ぎ捨てられたばかりの服を拾い上げた。
「この香水の匂い。それに、ここの口紅の跡はどう説明するつもり?」
彼は一瞥すると、悪びれる様子もなく笑った。
「祝勝会のノリだよ、分かるだろ? 女のファンが山ほどいてさ、俺の隙を突いて誰かがすり寄ってきたのかもしれない」
彼は再び私を抱きしめ、耳元で囁いた。
「やきもち? 俺が悪かった。次からは気をつけるよ」
彼の腕に力がこもり、いつものように私を胸の中に引きずり込もうとする。
私は小さくため息をついた。
「少し話をしましょう」
私の声の深刻さに気づいたのか、彼は腕を解いて私を見つめた。
「何を話すって?」
彼と視線を合わせる。五年前のその瞳には、純粋な感謝と陽光のような輝きが満ちていたというのに、今はただのごまかしと苛立ちしか残っていない。
「ねえ」
私はふっと微笑んだ。
「いっそ私たちの関係を公表してみない? 私へのプレゼントだと思って」
