第7章
美和視点
救急救命室の外、冷たい椅子に腰掛けていると、私の手はまだ微かに震えていた。
恐怖からではない。あの野球バットを振るった時のアドレナリンが、まだ完全には抜けきっていなかったからだ。
なぜ、私は亮を助けたのだろう?
その疑問が、頭の中をぐるぐると回り続けていた。愛情からじゃない、あの感情はレストランでとっくに死んだ。同情でもない、彼の愚かさには心底がっかりさせられた。
たぶん、それが私に残された最後の人間性だったのかもしれない。
彼に傷つけられたとはいえ、目の前で人が殺されるのを見過ごすことはできなかった。ましてや、彼がどんな女のために死のうとしていたのか、その...
ログインして続きを読む
チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
7. 第7章
縮小
拡大
