第32章

夕暮れどき、鈴木青美は淡い紫のロングドレスに着替えた。長い髪はゆるくまとめ、ベージュのニットのショールを肩に掛ける。メイクも控えめに整える。

鏡の前で一度、全身を確認した。肌に残った痕が、きちんと隠れている。――それを確かめてから、バッグを手に階段を下りた。

リビングでは早村謙介が待っていた。彼は青美の姿を見つけると立ち上がり、自然な動きで腰に腕を回す。

「行こう」

鈴木青美は抵抗しない。言われるまま、彼の隣に身を寄せた。

だが、早村謙介の動きがわずかに止まる。

妙だ、と彼は思う。鈴木青美が従順であればあるほど、こちらのほうが落ち着かない。

体はこんなに近いのに、心だけが遠い。...

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