第35章
鈴木青美は廊下に立ち、扉の向こうから漏れてくる雑然とした物音を聞きながら、ただただ馬鹿馬鹿しさに笑えてきた。
早村謙介は――もう、取り繕う気すらないらしい。
いまこの屋敷に祖父がいるというのに、早村瑞子とあんなふうに恥も外聞もなくやるのなら、どうして私にだけ「良き妻」の役を押しつけるのだろう。
こんな妻、どこにいる。
青美は口の端をひくりとさせ、踵を返した。
こんな茶番、見飽きた。演じるのにも、疲れた。
その瞬間――
ガチャッ、と扉が乱暴に開いた。
飛び出してきた早村謙介が青美の手首を鷲掴みにし、青美は足を取られてよろめいた。
「鈴木青美!」
怒気を含んだ声。何がそんなに...
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