第53章

沈黙が、じわじわと広がっていった。

やがて――鈴木青美が、ほとんど溜息みたいに文字を落とす。

「……それでいい」

林原稲美は勢いよく顔を上げ、信じられないものを見る目で彼女を見た。

「青美、今なんて言ったの?」

「それでいいって言ったの」鈴木青美は、静かに言い直す。

「……これで、いい」

「青美、やめて……」林原稲美は慌てて、彼女の手を強く握り返した。

「そんなこと言わないで。よくなるよ。先生だって――」

「稲美」

鈴木青美が、淡く遮った。

「……本当に、これでよかったの。少なくとも……残りの二年の婚約期間、うっかり子どもができる心配をしなくて済む」

一拍。

視線は...

ログインして続きを読む