第64章

早村謙介は数人の財界の古参たちと挨拶を交わしていた。入口のざわめきに、何気なく視線を流す――が、早村瑞子と、その腕に絡む男の姿を捉えた瞬間、わずかに動きが止まる。目の奥に、驚きが一閃した。

「……失礼」

低く周囲に断りを入れ、彼は入口へ向かった。

「林原おじさん、お久しぶりです。いつご帰国なさったんですか」

早村謙介は笑みを整え、林原宏へ手を差し出した。

林原宏は五十代半ば。だが手入れが行き届いていて、見た目は四十を少し過ぎた程度にしか見えない。上品な佇まいの中に、どこか芸術家特有の奔放さが滲む男だった。

謙介を見るなり、彼は朗らかに笑った。

瑞子の手を離し、謙介の手をしっかり...

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