第66章

早村謙介は玄関を飛び出した。冷たい夜風が、容赦なく頬を打つ。

だが見回しても、ホテルの正面は車の列とネオンの海。人の波は途切れないのに――あの細くて、決然とした背中だけが、どこにもない。

『青美!』

声を張り上げても、返ってくるのは沈黙だけ。

慌ててスマホを取り出し、鈴木青美に発信する。コール音が虚しく続き、やがて切れた。

早村謙介の背筋に、冷たいものが走る。

青美は、表向きは冷静だった。警察を呼び、淡々とその場を離れた。けれど――あれほど人前で辱められ、踏みにじられて、心が本当に無傷でいられるはずがない。

どこへ行った?

林原家? いや、今の青美が林原稲美に迷惑をかけに行く...

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