第8章

凌也視点

 地下の診療所をどうやって後にしたのか、凌也は覚えていなかった。

 九条邸へ戻る車中の記憶も曖昧だった。

 点滅するパトカーのランプ。息が詰まるような腐敗臭。

 足音が響く広大なエントランスホールに足を踏み入れる。

 そこには完全な、全くの死の静寂が広がっていた。

 まるで歩く屍が、空っぽの墓場に帰ってきたかのようだった。

 オーダーメイドのスーツには、雪乃の乾いた血がこびりついたまま。

 高価なイタリア製の革靴は、黄色い膿で汚れていた。

 だが、そんなことはどうでもよかった。

 彼の魂は胸から引き裂かれ、あの錆びついた死体安置所の台の上に置き去りにされていたの...

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