第5章
手術の前日、晩香は手術台に横たわっていた。手術室の中、薄緑色の布一枚が彼女と黒川瑞樹を隔てているだけだった。
彼女はわずかに首を傾け、布の隙間から、全身麻酔を施された瑞樹が静かに横たわっているのを見た。黒髪が真っ白な枕に散り、麻酔によってその顔立ちは穏やかで、普段の冷徹さや憎しみはなかった。
藤堂真一が静かに晩香のそばに歩み寄り、身を屈めて彼女の耳元でそっと囁く。
「晩香、今ならまだ後悔しても間に合う」
晩香は応えず、ただ虚空に瑞樹の輪郭をそっとなぞった。まるで、これが彼に会う最後であるかのように。
彼女は深く息を吸い込み、毅然と答えた。
「いいえ、後悔はしません」
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