第6章

T大医学部附属病院。江川晩香は弱々しく娘である花の頬を撫で、その瞳には名残惜しさが満ちていた。

花は顔色こそ青白いものの、その目には子供特有の純真な光がきらめいていた。

「お母さん、すぐ戻ってくるから。花ちゃん、いい子でねんねしててくれる?」

晩香はかろうじて微笑みを浮かべたが、その声はほとんど聞き取れないほどか細かった。

「うん、花、ママを待ってる」

花はこくりと頷き、小さな手で母親の指を強く握りしめ、目をぎゅっと閉じた。

晩香の視線は娘の肩越しに、手術室の外の廊下へと向けられる。鈴木蘭の姿を探したが、見つけることはできなかった。

彼女の口元に自嘲の笑みが浮かぶ。...

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