第2章

胃が締め付けられるような思いで、私は陽翔が壁に向かって泳いでいくのを見ていた。

あと二往復。その二往復のうちに、彼は壁に激突し、二度と歩けなくなる。

観客席の手すりを指が食い込むほど強く握りしめる。私が叫ぼうと決心した、ちょうどその時だった。

「真耶? なんでこんなところにいるの?」

振り返ると、沙耶香が立っていた――二ヶ月後には私のことを「人殺しの娘」と呼ぶことになる、その少女が。

「私はただ――」

すべてを切り裂くように、音が響いた。ドンという鈍い衝突音、そして静寂。

「なんてこと!」沙耶香が叫んだ。「陽翔!」

私はゆっくりと振り返った。陽翔が、動かないまま仰向けに浮かんでいる。彼の頭の周りの水が、赤く広がっていく。子供たちが駆け寄り、泣き出す子もいれば、助けを呼ぶ子もいた。

誰もどうしていいか分からなかった。

心臓が激しく打ちつけるのを感じながら、私は立ち上がった。衝撃からじゃない――息もできないほど重い罪悪感からだった。

「彼に触らないで!」私は観客席を駆け下りた。「脊髄損傷よ――下手に動かしたら危険!」

陽翔も含め、皆が私を見つめていた。彼の目は開いていて、意識があり、恐怖に怯えていた。

「君は誰だ?」丸山コーチが問い詰める。

私は彼を無視し、プールサイドに膝をついて陽翔の頭を固定した。「動かないで、いい? 救急車はもう来るから。ただ呼吸を続けて」

陽翔は混乱と恐怖に満ちた目で私を見上げた。「足が……足の感覚がないんだ」

胸が押し潰されそうだった。

「今はそのことを考えないで」私はそっと彼の顔に触れた。「呼吸に集中して。私の声に集中して」

彼はそうした。そして私は、自分が壊れるのを見過ごした少年の頭を抱えながら、自分が世界で一番最低な人間だと感じていた。


病院は、消毒液と絶望の匂いがした。

陽翔の病室の外で、私はもう三時間も座っていた。彼のお母さんはたった今、診断結果を告げられたところだった――下半身不随、おそらく一生治らない、と。

病室の中から、何かが割れる音がした。

ドアを押し開ける。陽翔が車椅子に座っていて、床には砕け散った薬瓶が散らばっていた。その顔は怒りで歪んでいた。

「出ていけ」彼の声は平坦で、冷たかった。「誰にも会いたくない」

私は割れたプラスチック片と錠剤を拾い始めた。

「出ていけって言っただろ!」今度は怒鳴っていた。「お前のことなんて知らない! なんでここにいるんだ?」

「分からない」私は散らかった床を片付け続けた。「多分、あの時そこにいたから」

その言葉で彼は黙り込んだ。彼が私を見つめているのが分かった。人生最悪の瞬間に現れた見ず知らずの女が、なぜここにいるのか理解しようとしているのだろう。

「お前は、誰なんだ?」ようやく彼が尋ねた。怒りは少し収まっていた。

「高橋真耶」最後の破片をゴミ箱に捨てる。「お医者さんは、後遺症が永久的なものじゃないかもしれないって言ってた。感覚が戻る可能性もあるって」

「なんでそんなこと知ってるんだ?」

「私が聞いたから」私は彼の向かいに座った。「これからどうするの?」

彼の目が鋭く光った。「どういう意味だ?」

「ここで物を壊し続けることもできるし、この状況を受け入れて前に進むこともできる。どっちも理にかなってる。ただ、あなたがどっちを選ぶのか知りたいだけ」

彼は長い間、私をじっと見つめていた。「どうしてお前は俺を怖がらないんだ? 同情もしないし。他の奴らはみんな、俺が死ぬみたいに見てくるのに」

私は未来のことを思った――彼が、後先考えずに私を助けるためにあのプールに飛び込む未来を。「あなたは死なないから。それに、哀れじゃないから」

「そうだな」彼は自嘲気味に笑った。「足の感覚すらないのに、哀れじゃないと」

「勇敢さっていうのは、足にあるものじゃない」私は彼の目を見つめた。「すべてが最悪の状況に陥ったとき、自分が何者であるか、っていうことよ」

彼の表情が変わった――怒りが消え、もっと柔らかく、困惑したようなものに。「お前、変わってるな、高橋真耶」

私は立ち上がって部屋を出ようとした。「うん、知ってる」

ドアのところで、彼が私の名前を呼んだ。

振り返る。

「ありがとう」彼は静かに言った。「すべてうまくいくなんて、言わなかったこと」

喉が詰まった。「うまくはいかない。でも、それで終わりってわけじゃない」


陽翔が学校に戻ってきた初日、校内はその話題で持ちきりだった。

「うそ、陽翔が……」「もう二度と泳げないんだって……」「あんなに格好良かったのに……」

ロッカーの前から、彼を取り囲む人だかりを眺める。悪意はない、ただ……好奇心と、どう接していいかわからない戸惑い。かつて輝いていた少年がそうでなくなった今、誰もどう接していいか分からないのだ。

陽翔は顎を引き締め、車椅子のハンドルを握る指の関節は白くなっていた。彼は普通を装おうとしていたが、心が壊れかけているのが私には見えた。

廊下の向こうから、彼の付き合っている香織が、憐れみと気まずさの入り混じった顔でこちらを一瞥し、すぐに立ち去った。他の友人たちも距離を置いている。

私は息を吸った。今の私は、まだ人気者の真耶だ――成績優秀、友達も多く、問題も起こしたことがない。私が陽翔に話しかけたところで、誰も気に留めないだろう。でも五週間後、父が逮捕されれば、すべてが変わる。

今がチャンスだった。

私は人混みをかき分けて、彼のもとへ歩み寄った。「みんな、授業の時間じゃない?」

陽翔は驚いて顔を上げた。「真耶」

私は彼の車椅子の後ろに回り、ハンドルに手をかけた。「押そうか?」

人だかりは散り始めたが、囁き声が聞こえてくる。「いつから友達だったの?」「優しいね……」「知り合いだったなんて知らなかった……」

「そんなことしなくていい」陽翔は、感謝しつつも警戒しながら言った。

「私がしたいの」私は彼を廊下の先へと押し始めた。

友人たちが困惑した表情で私を見ていたが、誰も何も言わなかった。この時間軸では、私はまだ皆に好かれる女の子なのだ。

「どうして?」彼の教室に着いた時、陽翔が尋ねた。

私は立ち止まり、彼の前にしゃがみこんで目線を合わせた。「だって、病院でのあの日、あなたは同情されるべき人には見えなかった。尊敬されるべき人に見えたから」

彼の顔に何かが変化した――信頼、あるいは希望かもしれない。

これでいい、と私は思った。彼は私を信頼し始めている

だが、私が立ち上がって行こうとすると、陽翔が私の手を掴んだ。

「真耶」彼の声は柔らかく、本物だった。「俺を、まだ普通の人として扱ってくれてありがとう」

彼の目にある感謝の念を見て、私の心臓は馬鹿なことをした。計画がうまくいっているからではない、もっとずっと危険な何かのせいで。

私は、本当に彼のことを気にかけてしまっていた。自分が意図的に傷つけたこの少年のことを、気にかけ始めていたのだ。

私はそっと彼の手を振り払った。「どういたしまして」

立ち去る間も、彼が私を見つめているのを感じた。振り返った時、胸が痛んだ。

彼は希望に満ちた顔をしていた。まるで私が、彼に何か貴重なものを与えたかのように。

違う。これはただの計画だ。本気で彼を好きになるなんてあり得ない。

でも、私の愚かな心は、真実に打ちのめされて痛み続けた。

私はもう、演じているのではなかった。

自分が意図的に人生を破壊した相手に、希望を与えてしまった。そして最悪なことに――私は彼に恋をし始めていた。

五週間後、私の世界が崩壊する時、私に優しさを示してくれるのは彼だけだろう。

でも彼は、その優しさが、私が彼にしたことの上に成り立っているなんて、決して知ることはないのだ。

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