第9章

美智視点

もう一度腕時計を確認する。午後二時三分。

もう、いつ来てもおかしくない。

そのとき、ドアが開いた。

「こんにちは、水原梨乃と申します」その声は滑らかで、プロフェッショナルそのもの。私が指導した通りの話し方だった。「里崎奥様からご依頼いただいた、トラウマ心理学の専門家です」

梨乃の姿は完璧だった。白衣に金縁の眼鏡、髪はきっちりとシニヨンにまとめられている。革製のポートフォリオを抱え、その身のこなしには、人が無条件に信頼を寄せてしまうような自信が満ちていた。

理奈は飛び上がらんばかりの勢いだった。「まあ、先生! わざわざお越しいただいて、本当にありがとうございます...

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