チャプター 73

リナ視点

その声に、私は完全に凍りついた。恐怖で体中がこわばる。聞き覚えのある声。グラントの声だ。その響きだけで、胃がむかむかした。

次に彼の匂いが鼻をついた――いつも吐き気を催させた、あの不快な香り。高級なコロンに何か腐ったものが混じったような匂い。それは、私の最悪の記憶全ての匂いだった。

『逃げて!』頭の中でスノーが絶叫した。彼女も私と同じようにパニックに陥っている。『あいつから離れるのよ!』

動けなかった。ドアノブを握る手が震えている。振り向かないように、ただ自分の部屋に入って鍵をかけようと必死だった。けれど、指がうまく動いてくれない。

「こっちを見ろと言っただろう、この役立た...

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