第3章

直人は三十分も早く到着していた。

私が画廊のドアを開けたその時、分厚いファイルを抱えて立っている彼の姿が目に入った。その表情は険しく、私の心臓は嫌な予感に早鐘を打った。

「何がわかったの?」私は逸る気持ちを抑えきれずに尋ねた。

彼は私の向かいに座ると、真剣な眼差しを向けた。「本当に知る覚悟はあるか? 真実というのは時に、想像以上に残酷なものだ」

「教えて。覚悟はできてる」

直人は最初のページを開いた。そこには和也の前科が記されていた。「傷害致死だ。懲役一年の実刑判決を受けている。三年前、バーの外で麗奈に絡んでいたチンピラから彼女を守ろうとして、相手に重傷を負わせてしまったんだ」

私の手は震えていた。すべて本当だったのだ。

「だが、もっと胸が痛むのはこっちだ」直人は刑務所の面会記録のページをめくった。「麗奈が面会に来たのは、たったの一度きりだ」

「一度だけ?」私は耳を疑った。「和也は彼女のために刑務所に入ったのよ? それなのに一度しか行かなかったの?」

「しかも、その面会の時……」直人は言い淀んだ。「刑務官の話によると、麗奈は和也の前で婚約指輪を見せびらかし、こう言ったそうだ。『もっといい男を見つけたわ。一文無しの前科者なんて、願い下げよ』と」

全身の血が煮えくり返るようだった。そのダイヤモンドの指輪、それは、兄が彼女に贈ったものだ。

「彼女は他に何を?」

「自分のために刑務所に入るなんて馬鹿な男だ、と言い放ったそうだ。新しい婚約者は金持ちで成功している、賢い女はそういう男を選ぶものだ、と」直人の声は低く沈んでいた。「その裕福な婚約者というのが、達也だったんだ」

私は溢れ出る涙を抑えようと口元を手で覆った。和也のために泣いているのではない。兄の優しさが不憫でならなかったのだ。麗奈にとって、達也は単なる金づるの道具に過ぎなかった。

「兄さんは……このことを全部知っていたの?」

「ああ」直人は次のページをめくった。「達也は、和也が自分の婚約者を守るために服役したことを知っていた。彼は罪悪感を抱き、裏で手を回して和也の減刑に尽力し、出所後の就職先まで世話していたんだ」

心臓が激しく鼓動した。「じゃあ兄さんは、麗奈がまだ和也に未練があるって気づいていたの?」

「そうだ。達也は一度身を引こうとした。だが麗奈は泣いて縋りつき、和也のことはもう忘れたと言い張ったんだ。達也は優しすぎた……彼女の言葉を信じることを選んでしまった」

私は椅子に深く沈み込んだ。あの穏やかな兄の優しさが、利用されていたなんて。

「兄さんの死についてだけど……」

「それも調べてみた」直人の表情が厳しさを増す。「達也の事故は不審な点が多い。あの日、彼はひどく情緒不安定で、誰かと口論でもした直後のようだったそうだ。事故の一時間前、彼は君に電話をかけていたが、繋がらなかった」

私は記憶を辿った。「あの日、私は和也とデートしていて……携帯の電源を切っていたわ!」

「それに達也は、ある探偵事務所から荷物を受け取っていた。その中身を見た後、彼は真っ青な顔で飛び出していったんだ」

全身の血が凍りつくようだった。「探偵? 兄さんは何を調べていたの?」

「まだ調査中だ。だが時系列から考えて、達也は麗奈に関する何らかの秘密を突き止め、それを君に伝えようとしていた可能性が高い。だが、時間が足りなかったんだ」

「私のせいだわ……兄さんが死んだのは」私は震える声で呟いた。「あの日、私が電話に出ていれば……」

「違う、朱里」直人は私の手を強く握りしめた。「これは君のせいじゃない。責任を問われるべき人間がいるとすれば、それは君ではない」

私は顔を上げて彼を見つめた。「どういうこと?」

「達也が突き止めた秘密が何だったのか、俺が必ず見つけ出すということだ。もし麗奈が本当に何かを隠しているなら、その化けの皮を剥ぐのを手伝うよ」

私は涙を拭い、無理やり心を落ち着かせた。今、より多くの真実が明らかになった。

和也は麗奈のために服役し、そして無残にも捨てられた。達也はそのすべてを知りながら、優しさと許しを選んだ。麗奈は兄の善意を含め、すべての人の感情を弄んだのだ。そして達也は死の直前に何らかの秘密を知り、私に伝えようとしていた。

そして私は、なんて愚かなんだろう――何も知らされず、彼らのゲームの駒に成り下がっていたのだ。

「直人」私は彼の温かな瞳を見つめた。「どうして私に協力してくれるの? 画廊で働き始めてまだ二年足らずだし、私たち、それほど親しいわけでもないのに……」

直人は複雑な表情を浮かべた。「実は、俺はただ正義感だけで君を助けるわけじゃない。俺は……」

「えっ?」

「いや、何でもない。その話はまた今度だ」彼は立ち上がった。「今重要なのは、君がどうするかだ」

私も立ち上がった。腹はもう決まっていた。

「あの人たちに、代償を払わせるわ」私の声は冷たく、確固たる意志が宿っていた。「和也は私を利用して麗奈を取り戻そうとし、麗奈は今の完璧な人生を続けようとしている。彼らに相応しい報いを与えてやるの」

「どうやって?」

「結婚式当日まで、何も知らないふりを続けるの」私の唇に冷ややかな笑みが浮かんだ。「そして大勢の参列者の前で、あの人たちの本性を暴いてやるわ」

「それは危険かもしれない」直人が案じるように言った。

「ううん、大丈夫よ」私は首を横に振った。「彼らは私が単純な女だと思い込んでる。その油断を逆手に取って、一生忘れられない教訓を刻み込んであげるの」

その晩、和也は定時に帰宅した。疲労の色が見えたが、それでも努めて明るく振る舞っていた。

「ただいま。今日は仕事どうだった?」彼は私の頬にキスをした。

「最高よ」私は甘い笑顔を作った。「そうそう、麗奈のことだけど、あなたの言う通りね。彼女、まだ新しい恋に進む準備ができてないのかもしれない。誰かを紹介するなんて話、もう持ち出さないことにするわ」

和也は目に見えて安堵の表情を浮かべた。「君は本当に物分かりがいいな」

夕食の席で、私は何食わぬ顔で切り出した。「明日は麗奈の誕生日でしょう? プレゼントを贈りたいんだけど、何がいいと思う?」

「誕生日?」和也の瞳が瞬時に輝きを帯びた。「明日……十一月十五日か」

十一月十五日。それは、彼が収監された日だ。

「ええ。あの大きなダイヤモンドの婚約指輪に似合う、ネックレスなんてどうかしら」

和也の箸がぴたりと止まった。あのダイヤモンドの指輪、麗奈が刑務所で彼に見せびらかしたという、あの指輪だ。

「彼女は……宝石ならもう十分持っているだろうし……」彼の声は掠れていた。

「いいえ、宝石こそぴったりよ。今はフリーなんだもの、綺麗に着飾って新しい幸せを掴まなきゃ」

和也は黙り込み、ただ機械的に食事を口に運び始めた。私の言葉が彼を突き刺し、刑務所でのあの屈辱を思い出させたのだとわかっていた。

だが、同情など微塵も湧かなかった。苦しめばいい。私を道具として利用した報いだ。

その夜、和也がシャワーを浴びている隙に、私は彼の携帯電話を確認した。

和也【明日は君の誕生日だね】

麗奈【まだ覚えててくれたの……】

和也【俺の人生で一番大切な日だから】

麗奈【私にとっては一番辛い日でもあるわ。忘れて、もう過去のことよ。それより計画はどう?】

和也【すごく順調だよ。彼女は俺を完全に信用しきってる】

麗奈【よかった。彼女に感づかれないように気をつけてね】

和也【心配ないよ、あいつは何も知らないんだ。結婚さえしてしまえば、堂々と君の面倒を見られるから】

これを見て、危うく声を出して笑うところだった。私が何も知らないですって?

私は画面のスクリーンショットを撮ってデータを保存し、送信履歴を削除して痕跡を消した。

和也が浴室から出てきた時、私はベッドで本を読んでいた。「明日、一緒に麗奈のプレゼントを買いに行かない?」

「明日は仕事があるんだ」彼は私から目を逸らした。「君だけで行ってきてくれないか」

「わかったわ。とびきりのサプライズにする」

私は照明を消して横になり、直人にメッセージを送った。

【明日、麗奈さんの誕生日プレゼント選びを手伝ってくれない? 特別なものを贈りたいの】

直人からの返信は早かった。

【了解】

私は口元を緩め、携帯電話を置いた。

明日、私の反撃が幕を開ける。

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