第6章

桜井絵里視点

大輔のスマホ画面で点滅する「綾子」の名前に、心臓を万力で締め付けられるような感覚に陥った。ほんの数分前まで熱を帯びていた私の唇から急速に血の気が引き、ゆっくりと後ずさりながら、彼に乱された服を直した。

彼が電話に出た。

「大輔、まだお仕事? もう遅いわよ……」スピーカーから漏れ聞こえる綾子の甘ったるい声。その一言一言が、針のように私を突き刺した。

「ああ、緊急事態に対応していてね」大輔はそう答えながらも、その視線は私から決して離れなかった。目に浮かぶ謝罪の色が、私を吐き気のするような気分にさせた。

私は振り返ることなく、会議室を後にした。

一ヶ月後、M市の秋...

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