第5章

小野寺幸男の姿は、まるで忌々しい警告信号のようだった。私の手は宙で止まった。啓介がまだ芸術工房について何か話していたが、私の世界は静止してしまった。

「映奈? 大丈夫か?」啓介の声に、私は現実に引き戻された。

「私……もう行かなければなりません」私は慌てて立ち上がり、コーヒーカップを倒しそうになった。

だが、再びドアの方に目を向けたときには、もう幸男の姿はなかった。

「ただ通りかかっただけかもしれない」私は自分に言い聞かせた。「これはただの偶然だったのかもしれない」

日曜の朝。開かれている青空市は活気に満ちていた。人混みの中、啓介と一緒にいれば安全だろうと思った。あの忌々しい...

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