第4話
チップだけでそれなりの稼ぎになり、私はタイムカードを押して仕事をあがった。服や日用品で消えた出費を埋め合わせるには、間違いなく助けになる額だ。仕事から解放されたのは嬉しかったが、家に帰るとなると話は全く別だった。
キャットに車で送ってもらった時、ローレンの仕事が終わるまでまだあと一時間はあった。つまり、ダレンと二人きりということだ。玄関のドアをくぐった瞬間、彼が泥酔しているのがわかった。彼はリクライニングチェアに座り、怒りに顔を歪めながら、砂嵐の混じったテレビ画面でフットボールの試合を見ていた。
「一体どこほっつき歩いてやがった?」リクライニングチェアから重い体を持ち上げようともがきながら、彼は吐き捨てた。
「仕事よ、ダレン」私はもう百回は繰り返したであろう台詞を口にした。呆れて目を回したくなるのを必死にこらえる。そんなことをすれば、彼の怒りに油を注ぐだけだとわかっていたからだ。私は彼の酔っ払い特有の長広舌から逃れるべく、二階へ向かおうと背を向けた。だが、彼の一言が私の足を止めた。
「仕事だと?」彼は鼻で笑い、よろめきながら立ち上がった。「どうせあのクソアマみてえな母親そっくりに、売春婦の真似事でもしてたんだろ」
今度はさすがに私も呆れて目をむいた。彼が四六時中酔っ払っていなければ、ローレンが私に生活費をすべて自己負担させていることぐらい覚えているはずなのに。自分の生活を支えながら高校に通うので精一杯で、「売春婦の真似事」なんてしている暇はないのだ。
「ローレンは私の母親じゃないわ」私はそう言い返し、階段を上ろうとした。その時、彼の手が私の手首を掴み、強引に引き戻した。転びはしなかったが、私は数歩よろめいてしまった。
「放してよ、ダレン」恐怖で体を強張らせながら、私は呟いた。彼がここまで近づいてきた時の記憶は、ろくなものではない。ダレンは酔うと決まって手癖が悪くなる。それが暴力であれ、性的なものであれ。
「この売女が」彼はそう吐き捨てた。アルコール臭い息が鼻をつく。彼が私をさらに引き寄せると、汗染みのついたシャツが目に入り、吐き気を催しそうになった。恐怖で全身が冷たくなるのを感じた。あまりにも近すぎる。
古くなったビールと体臭の混じった不快な臭いに、私は顔をしかめた。手首を掴む力が強まり、私は痛みに歯を食いしばった。
「放してって言ってるでしょ!」私は金切り声を上げると同時に、彼の股間に膝蹴りを食らわせた。ダレンは苦悶の声を漏らし、私の手首を放した。彼の酔っ払った怒鳴り声を背に、私は寝室へと駆け込み、背後でドアを叩きつけた。涙が溢れて視界が滲む中、震える手で鍵をかけた。
ドアをロックすると、私はベッドに倒れ込み、頬を伝う涙をそのままにした。辛い日もある。でも、ここを出て行く日のことを思えば全て報われるはずだ。何年もかけて、ローレンが私を実の娘のように扱ってくれるという希望は捨てた。その代わり、十八歳になった瞬間にこの家を脱出することだけを夢見てきたのだ。
私は数時間、ベッドの上で身動き一つせずじっとしていた。玄関のドアが開き、ローレンが入ってくる音が聞こえるまでは。そこでようやく私は重い体を起こし、足を引きずるようにしてシャワー室へと向かった。立ち込める湯気が、とめどなく流れる涙を隠してくれた。
ダレンとの生活は、常に神経を張り詰めていなければならない。彼がいる時は片時も油断できないのだ。それはひどく消耗することであり、終わりのない被害妄想に囚われているような気分にさせられる。私はシャワーから上がると、心身ともに疲れ果てた状態でベッドに倒れ込んだ。
朝はあまりにも早く訪れた。数時間の浅い眠りの後、私は目を覚まし、学校へ行く支度を整えた。最近買ったばかりの服の中から、スキニージーンズとオフショルダーの長袖シャツを選んで身に着ける。肌に残る手形の痣を見て顔をしかめ、それを隠すように袖を無理やり引き下げた。
いつものように、一限目と二限目の授業はキャットと一緒だった。私たちは課題に取り組みながらおしゃべりをした。だが、私が心配していたのは次の授業だった。レストランでキーランに言われたコロンについての言葉に私は混乱していたが、その後すぐに頭から追い出していた。どうやら、双子のほうは忘れていなかったらしい。
キーランとイーサンは二人とも、抗えないほど魅力的だった。髪は計算されたかのように完璧な無造作ヘアで、キーランはダークブルーのボタンダウンシャツ、イーサンはシンプルな黒のTシャツを着ていた。二人はいつものテーブルに座っていたが、今回はイーサンがキーランの向かいに座っている。私は顔をしかめた。どちらかの隣に座らなければならないからだ。キーランの方が生真面目で、時折怖さを感じることもあるため、私はイーサンの隣にドスンと腰を下ろした。
イーサンはまるで賭けに勝ったかのように、キーランに向かってニヤリと笑った。私はその罪作りなほど魅力的な双子から目を逸らし、教師の話に興味があるふりをした。
「可愛いお人形さんは、グループ課題を終わらせたのかな?」
イーサンがからかうように言い、彼の熱い吐息が私の耳にまとわりついた。震えが全身を走り、イーサンが鼻で笑う。私は口を固く引き結んで無視を決め込んだ。もちろん、課題は終わらせている。この厄介な双子のせいで成績を落とすわけにはいかないのだ。
私が答えないでいると、イーサンの指が私の肩の上で踊り、鎖骨をくすぐった。彼が触れた肌の下で泡立つような疼きを感じ、私は鋭く息を吸い込んだ。
「やめて」
私は教師を見つめたまま、鋭い声で囁いた。
イーサンの喉の奥から奇妙な唸るような音が聞こえ、彼を見たいという衝動が抑えきれなくなった。視線を彼に向けると、その漆黒の瞳に奇妙な光が宿っているのが見えた。
この異常なほど美しい双子のことが理解できなかった。第一に、彼らは私をいじめの標的に選んだ。第二に、彼らは私からの反応を求めている。第三に、いざ私が反応を返すと、彼らは何故か苛立っているように見えるのだ。
「俺を止めてみろよ、お人形さん?」
イーサンはニヤリと笑い、太い指を露出した私の鎖骨に沿って這わせた。
ちょうどその時、教師がグループ課題を集めて回ってきた。イーサンの好き勝手に動いていた手が引っ込み、私はバインダーをあさって課題を探した。教師に提出した後、太ももを大きな手で鷲掴みにされ、私は驚いて席から飛び上がりそうになった。
イーサンが私を見下ろして不敵に笑い、私の体が強張る。「あの威勢のいい態度はどこへ行ったんだい、お人形さん?」彼は低くかすれた声で、耳元にあまりにも近づいて囁いた。
私は頬の内側を噛み、彼らの戯言には乗らないと固く決意した。彼らがこういう振る舞いをして興奮しているのかどうかは知らないが、それを助長するつもりはなかった。
そうして、授業の残りの時間を過ごす羽目になった――イーサンの手が触れるべきではない場所を這い回るたびに、私は息を呑んだ。ある時点で、彼はふざけて私の髪の毛を一束引っ張った。私は頬がカッと熱くなるのを隠すために、慌てて顔を背けた。
すぐに、キーランが無口な方だと気づいた。彼の目は授業中ずっと私に釘付けだった。私を見つめていない時は、兄弟を睨みつけていた。その瞳には嫉妬の炎が燃えているのが見えた気がした。二人掛かりで交代に私をいたぶりたがっているなんて、本当にうんざりする話だ。
