第1章
私たちが結婚三周年を迎えた記念すべき日、純一は怜奈の車に追突した――新井怜奈は、彼の初恋の相手だった。
雨の降る夜。ひしゃげた車体が転がる凄惨な事故現場で、私は内出血を起こしていた。
彼は私の傷口を圧迫していたが、それは止血のためではなかった。それどころか、救急隊員に向かってこう怒鳴り散らしたのだ。
「今すぐ妻から血を採れ! 彼女も怜奈もRhマイナスだ! まずは怜奈を助けるんだ!」
救急隊員は唖然としていた。
「ご主人、こちらの患者さんも出血しています。そんな医療規定に反するようなことは……」
「俺は彼女の夫だ!」純一はほとんど咆哮するように言った。「全責任は俺が取る! 今すぐやれ!」
その時、私はすでに出血性ショック状態に陥っていたというのに、彼は私から血を抜いて別の女を救おうとしていたのだ。
「純一……」私は必死に懇願しようとした。
彼は私に一瞥すらくれず、怜奈という女の傍らに跪き、まるでかけがえのない宝物を扱うかのように彼女を抱きしめていた。
太い採血針が、私の血管に突き刺さる。
私の血が、一滴、また一滴と彼女の体へと流れ込んでいく。
意識が途切れる直前、純一の声が聞こえた。
「怖がらないで、怜奈。俺はここにいるよ」
三日間。
私は三日三晩、地獄の門前を彷徨い、忌々しい生存本能によってようやくこの世に引き戻された。
目を覚ますと、鼻腔を突くのは強烈な消毒液の匂い。
カーテンの向こう側から、純一と見知らぬ医師が声を殺して言い争うのが聞こえてきた。
「純一、頭がおかしくなったのか? 彼女は君の妻だぞ! ただでさえ術後のひどい貧血状態だってのに、意識を失っている間にさらに血を抜かせるなんて。死んでしまうかもしれないんだぞ!」
「黙れ、海斗」純一の口調は冷徹だった。「俺の金を受け取った以上、お前は黙って仕事だけしていればいい。怜奈の新しい拒絶反応を抑えるためには、黄金の血が必要なんだ。Rhマイナスがどれほど希少か、お前も知っているだろう。世界中に50人といないんだぞ」
「だからって妻を無限の血液バンク扱いするのか?! もうこれ以上は手伝えない。このままじゃ彼女は死ぬ」
純一の声には何の感情もこもっておらず、むしろ独善的な傲慢さすら滲んでいた。
「咲良はこの五年間、贅沢な暮らしをしてきた――大半の人間が何度生まれ変わっても手に入れられないような生活をな。これは等価交換だ。怜奈は俺のミューズなんだよ。彼女の顔、その身体――すべてが芸術品だ。その完璧さを保つためなら、凡庸な専業主婦一人くらい犠牲にしたところで何の問題がある?」
凡庸な専業主婦。
ベッドに横たわる私の目は、ひどく乾いていた。
この五年間という月日が、まるで不条理なスライドショーのように脳裏を駆け巡る。
「咲良、君は体が弱すぎる。これは俺が特別に調合した栄養注射だよ」――それは、造血を促進するためのものだった。
「咲良、これは定期検診だよ。未来の赤ちゃんのために準備しておかないとね」――あの検査は、私の血液の質をモニタリングするためのものだった。
「もう仕事には行かなくていい。あんな不潔な病院で君が苦労するのを見るのは、本当に忍びないんだ」――それは、私が医学界の同僚と接触し、自分の身体の異常に気づくのを防ぐためだった。
すべて、合点がいった。
カーテンがシャッと音を立てて開かれた瞬間、私は今目覚めたばかりのふりをした。
「咲良! ああ、よかった、やっと目を覚ましたんだね。本当に心配したよ」
純一は駆け寄り、私の手を握りしめ、依然として愛情深い夫を演じ続けている。
以前の私なら、感動の涙を流して彼の胸に飛び込んでいただろう。
だが今、彼を見つめる私の目に映るのは、まるでハエがたかる死骸のような、吐き気を催すおぞましい姿だった。
彼が演技をしているのは分かっている。
おそらくこれが、彼の人生における最高傑作の手術なのだろう――私の信頼をメスで切り裂き、その傷口を嘘で縫い合わせるという。
「お水が、欲しい……」
私は弱々しい声で呟きながら、彼に触れられるのを避けるように、こっそりと手を布団の下へ引っ込めた。
「私、どうなったの? 体中が痛い」
純一の瞳が、一瞬だけ揺らいだ。
彼はコップに水を注ぎ、ストローを挿して私の口元に運びながら、甘い声で言った。
「たくさん血を流したからね、術後の正常な反応だよ。君のために最高の医療チームを手配したから、安心して」
「じゃあ、もう一台の車に乗っていた人は?」私は彼の目を真っ直ぐに見据え、わざと尋ねた。
「ただの赤の他人さ。心配いらない」彼は微笑んだ。「何も考えなくていい。君の体調が良くなったら、来週にでも旅へ行こう。君がずっと行きたがっていた場所に行こう。二人きりで、どうだい?」
二人ぎりの旅行。
それは、彼がプロポーズの時に口にした約束。
すでに五年の月日が過ぎ去っている。
「ええ」私はまぶたを伏せ、長い睫毛で瞳の奥に渦巻く冷たい殺意を隠した。「あなたの手配通りに、何でも合わせるわ」
純一は明らかに安堵の息を漏らした。
翌日のお昼、その「旅行」とやらは、案の定キャンセルとなった。
純一からかかってきた電話の声は、申し訳なさで満ちていた。
「咲良、本当にごめん。学会で幹細胞移植の緊急会議が開かれることになってね。どうしても出席しなければならないんだ。旅行は延期になりそうだよ」
「大丈夫よ、お仕事が一番大事だもの」私は受話器に向かってそう答えた。
電話を切った後、私は怜奈のSNSアカウントを探し出した。
つい五分前――つまり、純一が「緊急の学術会議」に出席していると主張したまさにその時間――怜奈の投稿が更新されていた。
写真に写っていたのは、赤いハイヒールを履いた片足。
そしてその靴を履かせている手には、私が見覚えのある結婚指輪が光っていた。
添えられた文章は短いが、一文字一文字が私の心に深く突き刺さる。
「生まれ変わり。私に二度目の命と、未来へ歩み出す勇気をくれた専属のドクターに感謝します。#愛 #新生」
その毒々しい赤色は、あの雨の夜に私の身体から流れ出た液体のように見えた。
彼女が足にまとっているのは、ただの靴ではない。
私の血肉そのものだ。
この写真を見た瞬間、私の心に残っていた最後の温もりも完全に消え失せた。
私は連絡先を開き、「原田教授」と登録されている番号で指を止めた。
五年前、私が結婚のために大学院を辞めると決めた時、彼は私を指差して激しく罵倒した。
これは医学界における最大の損失だ、と。
絶対に、地べたを這いずり回って後悔する日が来るぞ、と。
私は深呼吸をし、発信ボタンを押した。
「原田教授、佐野咲良です。以前おっしゃっていた『Rhマイナス血液の極端な耐性と拒絶反応』に関するプロジェクト――まだ適切な被験者が見つかっていませんよね?」
「今回は、ただの研究員としてではありません。私が教授にとって最高の――そして唯一の――生きた実験サンプルになります。私の血液も、身体も、データも――すべて差し上げます。だから、私をここから連れ出して」
私の声は、次第に嗚咽に変わっていった。
五年。
この五年間、私はようやく自分の居場所を見つけ、心から愛される妻になれたのだと信じ切っていた。
だが現実は、すべてが偽りだったと私に突きつけた。
夢が砕け散った今、私は自分の人生の主導権を取り戻さなければならない。
「教授……」私はついに堪えきれず、涙をこぼした。「私、仕事に戻りたいです」
その時、ドアの向こうから足音が近付いてきた。
純一が帰ってきたのだ。
「咲良? 誰と電話しているんだ?」
