第2章
しん、と静まり返った。今度のはひそひそ話だけじゃない――すべてが、だ。長谷川おばさんでさえ、カウンターを拭く手を止めていた。まるで喫茶店全体の音が消されたみたいに。
ドアの方を向いて、すぐにその理由がわかった。
戸口に立っていた男は、長身で、黒髪で、そして一部の人間がやってのける、あの気負いのないやり方で不公平なくらいハンサムだった。モデルのようなシャープな顎のラインを持ち、見とれてしまうほど鮮やかな緑色の瞳をしていた。でも、皆が口を閉ざしたのは、彼の容姿のせいではなかった。
私を見る、その視線のせいだった。
冷たく、計算高く。まるで、ひどく不愉快なパズルを解こうとしているかのような……。
部屋の向こう側で彼と視線が合い、胃がひゅっと縮むのを感じた。その表情には見覚えがあった。たいてい、誰かが私の「評判」やら「軽率な行動」やらについて説教を始める直前の顔だ。
最悪。また一人、実際に会って確かめるまでもなく、私がどんな人間か決めつけてる奴が現れた。
その見知らぬ男の視線が剛に移り、そしてまた私に戻ってくる。彼の表情に何かが変わった。たぶん、何かに気づいたのか。それとも、高瀬遥と、彼女の男関係とやらの噂が本当だったと確信したのか。
私は顎を上げ、まっすぐに彼を見つめ返した。田舎町のゴシップで私を判断したいなら、それは彼の問題だ。
だけど、彼が店に足を踏み入れ、背後でドアが閉まるのを見て、嫌な予感がした。これはすぐに、私の問題にもなるだろう、と。
見知らぬ男は、都会の人間だと叫んでいるかのような自信に満ちた足取りでカウンターに向かってきた。彼のすべてが完璧に整っていて、私のジーンズと古びたセーターがみすぼらしく感じられるほどだった。ジャケットは高価そうで、靴には一点の曇りもない。自分の思い通りにすることに慣れている人間の振る舞いだった。
剛が肘で私をつついた。「知り合いか?」
「ううん、会ったこともない」
でも、彼が店内を検分するそのやり方に、なんだか肌が粟立つような感じがした。彼の視線は、高瀬おばあちゃんが壁に飾ったヴィンテージのポスターや、不揃いの椅子、少し歪んだ床板の上をゆっくりと滑っていく。まるで、この店の欠点を一つひとつリストアップしているかのようだった。
彼はカウンターにたどり着くと、長谷川おばさんにちらりと目をやり、それから私を見た。「あなたがオーナーですか?」
予想通りの声だった――滑らかで、教養を感じさせるが、ほんのわずかに焦燥感が滲んでいる。まるで、田舎の人間に話しかけるなんて屈辱的だけど、仕方なくやってやっている、とでも言いたげな口調だ。
「私です」一歩前に出て、無理に笑顔を作る。「高瀬遥です。何かご用でしょうか?」
「冬木亮介だ」彼は手を差し出すでもなく、笑顔を返すでもなかった。「この町で新しく獣医を開業することになった。あんたの店のペットポリシーについて話がしたい」
ペットポリシー? そんなもの、うちにはない。おばあちゃんは、行儀が良ければ犬を連れて入るのをいつでも許していた。
「ええ、もちろん」私は穏やかな声色を保って言った。「それが、何か?」
亮介はスマートフォンを取り出し、メモのようなものをスクロールし始めた。「地域の施設が保健所の基準を満たしているか、確認して回っているんです。動物の入店を許可するコーヒーショップは、特定の要件を満たす必要があります」
その言い方は、まるで私が何か問題を起こしているかのようだった。背後で、再びひそひそ話が始まるのが聞こえた。
「現在のうちの方針に、何か問題でも?」と私は尋ねた。
「懸念事項がいくつかあります」彼はまだ、私のことをまっすぐには見ていなかった。「まず、食品を調理するエリアは、動物が立ち入るゾーンと完全に分離されなければならない。ペット専用の座席を設け、使用ごとに適切に消毒することも必要です。そして、すべての動物について、最新の予防接種記録をファイルしておくことが義務付けられます」
彼の言葉は一言一句が批判に聞こえた。まるで、この場所は基準に達していないと最初から決めつけていて、その理由を説明する手順をただこなしているだけ、というように。
「妥当なご意見だと思います」と私は言った。内心では、とんでもなく面倒な話だと思っていたけれど。「きっと、何か解決策を見つけられるはずです」
亮介がようやくスマートフォンから顔を上げた。視線が合った瞬間、先ほどと同じ冷たい評価の眼差しを感じた。「どのエリアがペット可で、どのエリアが不可かを示す適切な表示も必要になります。それから、動物同士のトラブルを防ぐために、複数の動物を管理するシステムも」
「なるほど」私は頷いた。まるでそれがごく普通のことであるかのように。彼がわざと私の人生を困難にしようとしているなんて、おくびにも出さずに。「他には何か?」
「現在の衛生管理手順を見せていただく必要が――」
「遥!」
振り返ると、牧野一成がまるで火事でも起きたかのようにドアから飛び込んできた。砂色の髪はあちこちに跳ねていて、女の子に話しかける勇気を振り絞ろうとするときの、あのパニックに陥った表情をしていた。
「よかった、ここにいてくれて」彼は私に駆け寄りながら言った。「助けてほしい。本気で助けてほしいんだ」
剛が鼻で笑った。「当ててやろうか。恵美ちゃんのことだろ?」
一成の顔が真っ赤になった。「彼女、デイジーが好きだったよな? それともバラだっけ? 遥、先月ファーマーズマーケットで彼女がなんて言ってたか覚えてる?」
思わず笑みがこぼれた。一成はもう半年ほど、町の図書館司書である江間恵美に夢中なのだ。でも、彼に彼女と話すように頼むのは、猫に犬のお手をさせるようなものだった。
「デイジーよ」と私は言った。「絶対にデイジー。バラは堅苦しすぎるって言ってたわ」
「よし、よかった。で、チョコレートは? ダーク? ミルク?」
「ダーク。健康に気を使ってるって言ってたから」
一成は、一言一句を暗記するかのように必死に頷いていた。「ダークチョコレートと、デイジー。わかった。ワインはどうだ? 持っていくべきかな?」
「図書館に?」
「いや、その後に。もし彼女がコーヒーにOKしてくれたら。たぶん断られるだろうけど、万が一に備えて――」
「一成」私は彼の方に手を置いた。「深呼吸して。考えすぎよ」
彼は深く息を吸い、そしてもう一度吸った。「そうだよな。シンプルに。シンプルにいかないと」
「その通り。仕事の後にコーヒーでもどうかなって、気軽に誘うだけ。カジュアルに、フレンドリーに。あなたならできるわ」
剛は、今日一番の見物だとでも言わんばかりにニヤニヤしていた。だが、亮介の方に目をやると、彼の表情は冷たいを通り越して、氷のようだった。私と一成のやり取りを、最悪の疑いがすべて確信に変わった、とでも言いたげな目つきで見ている。
最悪。また一人だ。私が男とする会話は全部、実際とは違う意味があると思い込む奴。
「ありがとう、遥」一成は私をさっと抱きしめた。「お前は最高だ。本当に助かる」
「今度こそ、怖気づかないでちゃんと誘うって約束して」
「約束する。たぶん。おそらく」彼はニヤッと笑ってドアに向かった。「幸運を祈っててくれ!」
その後に続いた沈黙は、地獄のように気まずかった。亮介はまたスマートフォンに視線を戻していたが、彼から放たれる非難のオーラが感じられた。長谷川おばさんはコーヒーカップを整理するふりをしているし、他の客たちはもはや盗み聞きしていないふりすらやめていた。
「それで」私は亮介に向き直って言った。「衛生管理手順のことですけど……」
彼が答えるより先に、再びドアが開いた。
今度は見知らぬ人ではなかった――友人だった。
