第5章
電話を切り、私は一分もの間、それをじっと見つめていた。
蓮は鼻歌交じりにテーブルを拭いていた。とても落ち着いていて、すっかりここに馴染んでいるように見える。そんな彼に、父親が今になって息子を返してほしいと言っているなんて、どう伝えればいいのだろう?
「莉奈? 大丈夫か?」蓮が鼻歌をやめ、心配そうに私を見ていた。
「お父さんが、審問に来るって」
彼の手の中の布巾が、ぴたりと止まった。「……そう」
「養子縁組に異議を申し立ててる。あなたを連れ戻したいんだって」
蓮は一番近くのボックス席に、どさりと腰を下ろした。「父さんにそんなこと決められるの? 僕を……ただ連れて行ったりでき...
ログインして続きを読む
チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
7. 第7章
8. 第8章
縮小
拡大
