第37章 彼女は一番哀れを装うのが上手い

夜の潮風は容赦なく、波が何度も北条千雪を海水の中へさらっていった。けれど浮力の大きい救命胴衣が、彼女を何度でも水面へ押し戻す。

吉村毅は彼女が沖へ流されないよう、救命胴衣にロープを結びつけ、それを岸辺の木へ括りつけさせた。

海は骨の髄まで凍りつく冷たさで、千雪の歯はがちがちと鳴り、身体は震えっぱなしだった。

水面に漂う彼女は――世界に見捨てられた人間みたいで。

寒い……。

お姉ちゃん、寒いよ。抱きしめて……。

背中からふわりと腕が回る気配がした。温かい。――お姉ちゃんが迎えに来てくれたんだ。

そう思った、次の瞬間。

高級車の後部座席に沈んでいた鷹司京介は、海面でちらつく反射を...

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