第二十七章

海は果てしなく、暗く前方に広がっている。月光の微かな輝きが海面に反射し、銀色の帯となって揺らめく。波はゆっくりと、規則的な鼓動のように打ち寄せている。その揺るぎないリズムは、ネレイド号の甲板で高まりつつある緊張の嵐など、まるで知らぬげだ。

湿った夜気に、潮の香りを孕んだ風が切り込んでくる。遠い岸辺の、あの独特な磯の匂いだ。レーダー探知圏外ギリギリの位置で停泊する私たちの場所からは、エニグマの南太平洋の拠点は、水平線に浮かぶ黒いシルエットとして辛うじて視認できる程度だ。

ここから見れば、それは水面から突き出た岩壁と鬱蒼としたジャングルの塊に過ぎず、見かけ上は平穏そのものだ。だが、私たちは騙さ...

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