第二十九章

俺を取り巻く世界が凍りついている。ただ静止しているだけではない――完全に凍結しているのだ。一枚の絵画のように、あるいは決して色褪せることのない記憶のように、時の狭間に縫い留められている。自分の心臓が早鐘を打つ音、肌の上を奔(はし)る電流の感覚は残っているが、それ以外はすべてが沈黙に包まれていた。

俺は『エーテル』の中にいる。だが、何かが違う。

以前にもここへ来たことはあるが、今回は様子が異なっていた。この場所に意識が漂う際、いつもなら思考にまとわりつく霧が、今はどこにもない。代わりに存在するのは、研ぎ澄まされた明瞭さだ。空気は広大で不可知な何かを帯びて低く唸り、俺の肌を粟立たせる。

その...

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