チャプター 273

山の空気は、記憶にある限り一番澄んでいる。冷たく、甘く、苔と松の香り、そして何か古く、手つかずのものの匂いで満ちている。おそらく登りすぎてしまったのだろう――ウェイクは何度も肩越しに振り返っている。まるでリリーやショールの警備兵たちが木々の間から現れ、答える気にもなれない質問を浴びせてくるのを警戒しているかのように。

だが、誰もいない。ただ風と、水と、空があるだけだ。

ミオレは緊張している。口には出さないが、その態度は全身に表れていた――強張った肩、泳ぐ視線、絶えずコートの裾をいじる手。「もしショールに、僕たちがこんなところにいるとバレたら……」

「バレないわ」と私は言う。「たとえバレた...

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