第58章

彼女は、もう一言だって口にするのも汚らわしかった。

相葉栞里は視線を引き戻し、氷上颯と氷上辰也を二度と見ようともしない。くるりと背を向け、ぺたぺたとフラットシューズの音を響かせながら、廊下の突き当たりへと迷いなく歩き出した。

「待て!」

渡辺秋沢は栞里が去ろうとするのを見るなり、数歩で追いすがり、両腕を広げて壁のように行く手を塞いだ。憤りで顔を歪め、歯を食いしばって低く唸る。

「人を突き飛ばしておいて、このまま逃げる気か? 相葉栞里、今日ここで謝らないなら、どこにも行かせないぞ」

氷上颯は水を張ったような無表情のまま、周囲の空気まで凍らせるような圧を纏っていた。

大股で詰め寄...

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