第152章 男の腕の中で目を覚ます

個室の中は喧騒に包まれていた。話し声、歌声、哄笑――耳をつんざくような騒がしさだ。

だが、マークスと中村颯太が陣取るこの片隅だけは、奇妙なほど静寂に満ちていた。

二人はひたすらグラスに酒を注ぎ、杯を合わせ、喉に流し込む。

颯太は、自身がスパイであるという立場など、完全に忘却の彼方へ追いやってしまった。

今夜の重大な任務さえも、頭から抜け落ちている。

ただ、自分を見つめるマークスの、あの深い青色の瞳に溺れていた。

マークスが隣に座り、二人の体は触れ合うほどに近い。颯太の鼻腔を、彼から漂う淡い香りがくすぐる。

それはアルコールの臭いではない。紫煙の香りでもない。ましてや、男特有の汗...

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