第210章 平手打ちの跡

(福山真司の視点)

幸村千弘は、たぶん二秒ほど黙った。

それから笑った。愉快そうな笑いじゃない。刃がガラスを引っかくみたいな笑いだ。

「焦るな。先に走らせろ。遠くまで行けば行くほどいい。捕まえて連れ戻すとき、そっちのほうが面白い」

片手にスマホを掲げ、壁にもたれたまま声を落とす。けれど、その一語一語が釘みたいに空気へ打ち込まれていく。

ホテルの防犯カメラを回し、村山愛未が乗ったタクシーを洗い、行き先を追う。飛んでいく指示はどれも無駄がなく、感情の余白が一切ない。

「警察に連絡。全国手配だ。あと、あいつの銀行口座、匿名口座、海外口座――全部凍結しろ。身動きできなくしてやる。1円も使...

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