第22章 これで十分だと思ったのか?

(牧野結菜の視点)

空は鉛色で、冷たい雨が降っていた。骨の芯まで沁みる寒さ。

黒いトレンチコートを着込み、ひとり傘を差して墓碑の前に立つ。泣かなかった。ただ腰を折り、濡れたウェットティッシュで、写真を何度も何度も拭った。写真の中の女は、やさしく笑っている。

「……お母さん」

花を置き、小さく言う。雨音が大きくて、声がふわりと散った。

「会いに来たよ」

「もう少しだけ待ってて。すぐ……私は行くから。誰も私を知らない場所へ。そこで、やり直す」

「お母さんの分まで、ちゃんと生きる。私が好きになれる私として」

そうやって立ったまま、彼女に話しかけた。あのニュースも、あの言い争いも、あ...

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