第32章 狂人

(福山真司の視点)

別荘に戻るなり、靴も脱がずに駆け上がった。

手の中の箱を、指が痛くなるほど握り締めたまま、一直線に二階へ。

あいつの顔が見たかった。

驚け。愕然としろ。たかがネックレスひとつであれだけ目くじらを立てていたくせに、九千万の前ではどれだけ滑稽か――その瞬間を。

「ドン、ドン、ドン!」

叩いても、返事はない。

またか。俺が来ても、いつもそうだ。死んだみたいに静かで、気配すら消してやがる。

堪忍袋の緒が切れた。ポケットから予備の鍵を取り出す。

この家の鍵は全部、俺が持っている。俺の家だ。ここにあるものは全部、俺のものだ。物置に押し込んでいるあの女だって――例外じ...

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