第58章 あの背中

(福山真司の視点)

福山グループ、社長室。

一晩帰らず、そのまま会社へ来た。デスクに腰を落ち着け、目の前には緊急のM&A書類が広がっている。だが、文字がまるで頭に入ってこない。

脳裏を何度も何度もよぎるのは、電話越しに彼女が吐き出した言葉だった――

「私、一人で……吹雪の中を、這って部屋まで戻ったんです」

「あと十分遅かったら、助からなかった」

「お願いです……あなたも、あなたのお孫さんも……もう、放っておいてください」

「私、死にたくない」

見えない手に心臓を鷲づかみにされているみたいで、きりきりと痛む。

知らなかった。そんな目に遭っていたなんて。

俺はずっと、彼女が家...

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