第71章 私はあなたを愛したことなど一度もない

(牧野結菜の視点)

いつもどおり社員証をかざしてビルに入る。

違うのは――背後に張りついていた黒のベントレーと、肌に刺さる視線ごと、ガラス扉の向こうへ閉め出したこと。

エレベーターに乗り込むと、私は無表情のままスマホを取り出し、警備部へ直通で電話を入れた。

「もしもし。警備部でしょうか。デザイン部の牧野結菜です。通報があります。いまオフィスビルの正面入口付近に、不審者が長時間うろついています。帽子とマスクで顔は確認できませんが、挙動が明らかに不自然です。記者の張り込み、あるいは悪意ある第三者の可能性も否定できません。社員、特に役員クラスへの安全上のリスクになります。至急、確認と対応を...

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