第290章

「ここは外界との連絡がめったにない場所でしてね。こんな携帯しかありませんが、お役に立てれば」

 相手のあまりに素朴な様子に、黒川綾は胸の奥がツンと痛むのを感じた。彼女は慌てて頷くと、差し出された携帯電話を受け取った。

 記憶の中にある番号を思い浮かべると、黒川綾の心臓は早鐘を打ち、不安で張り裂けそうになった。水原拓真は今、一体どうしているだろうか。そもそも、自分の電話に出てくれるだろうか。

 だが黒川綾は信じていた。水原拓真が電話にさえ出てくれれば、必ず方法を見つけて自分を探し出してくれるはずだと。彼はそんな簡単に諦めるような男ではないことを、彼女は誰よりも知っている。

 二人は数多...

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