第299章

水原拓真は、事の重大さをいささか見誤っていたのかもしれない。

本来であれば、あの一家を丸ごと連れ出すなどという発想は、彼の中には存在しなかった。

黒川綾の強いこだわりがなければ、断じてこのような真似はしなかっただろう。

だが、綾がそうと決めた以上、彼はその意志に従うほかない。

拓真は思考を巡らせると、隣にいる綾に視線を向け、短く頷いた。

「わかった。まずは彼らに会いに行こう。状況を確認してからだ。お前のことだ、直接顔を見ないと安心できないだろう?」

綾は相好を崩した。拓真のその配慮が嬉しかったのだ。

命の恩人に対して、誠意ある対応ができなくては、合わせる顔がない。

拓真にとっ...

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