第373章

くしゅん!

退社時刻が迫る頃、黒川綾は不意に大きなくしゃみをした。

同僚がハンカチを差し出してくる。

「どうしたの? 風邪?」

「なんでもない。きっと輝星が私のことを噂してるんだわ。ここ数日仕事が忙しすぎて、幼稚園の送り迎えも全然できてないから。あの子には悪いことをしちゃったな」

輝星の名を口にした黒川綾の瞳は優しく輝いていたが、その奥には隠しきれない罪悪感が溢れそうになっていた。

同僚は笑いながらからかう。

「もう、そんなに子供が好きなら、どうして自分で産まない……」

言葉は途中でプツリと途切れた。彼女は申し訳なさそうに口元を覆い隠す。

「ごめんなさい」

「気にしないで...

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