CH3

「アリ様、礼儀をわきまえてください」と、侍従の一人が毅然とした口調で言った。「あの方は『炎の試練』を乗り越えられたのです」

彼女は私をあざ笑った。私も冷ややかな視線を返してやる。アリは顔を赤らめた。

「たとえそうだとしても、兄上にはもっとふさわしい相手がいるはずよ」彼女は唸るように言った。「人間風情が、王妃の色を身にまとう権利などないわ!」

私は目を細めた。「自分が着たいから、そう言ってるの?」

彼女は唸り声を上げ、剣を抜いた。

侍従たちが凍りついたが、私は即座に踏み込んだ。彼女の手首を打つと、剣が手から離れる。私は宙を舞ったそれをひったくった。アリはよろめきながら私に爪を立てようとしたが、私はそれをかわし、彼女を壁に突き飛ばすと、その喉元に切っ先を突きつけた。アリは息を呑み、鋭い牙をむき出しにした。

「陛下――」

「はっきり言っておくけど」私は告げた。「私が来る前にあんたがどれだけ暴れ回っていたか知らないが、私は大人しくいじめられるような性格じゃないんだ」

彼女は唸った。その瞳が光を放つ。「この下等な人間め。後悔させてやる」

「後悔するのはあんたの方だ」私は剣をさらに首へと押し当てた。「今度私に剣を向けたら、その腕、切り落としてやるからな」

彼女は唸り声を上げた。「兄上が貴様ごときを受け入れるはずがない!」

私は鼻を鳴らし、一歩下がって剣を彼女の足元に放り投げた。

「受け入れてもらおうなんて思ってない。ここに来たいと言った覚えもないしな。元の場所に返してくれ」

侍従たちは不安げな表情を浮かべた。「それは不可能です」

アリは地面から剣をひったくり、唸り声を上げた。「貴様……」

「アリ様、王妃陛下に剣を向けましたね」侍従が言った。「法によれば……」

私は口の端を歪めて笑い、片手を挙げた。「捕まえる必要はない。ただ……権力者とやらに報告すればいい。こいつを一番困らせることができる奴にな」

彼女は目を見開き、青ざめた。

「役人とか、長老とかいるだろ?」

「帝国の長老衆はこの件を知りたがるでしょう」侍従は私をちらりと見て、ゆっくりと言った。「彼らはあなたにも会いたがるはずです」

「遠慮しておく」

「拒否権はございません」

「私に選択肢なんてあったのか?」

彼らの目が光った。「いいえ」

私は鼻で笑った。

アリは私に向かって唸った。「覚えてなさいよ……」

彼女はきびすを返し、足音を荒らげて出て行った。二人の侍従がその後を追う。

残った侍従がマヤを見た。「私は長老衆にあなたのことを報告しなければなりません。マヤ、陛下の世話を頼む」

私はマヤを見た。宮殿に銅鑼の音が鳴り響く中、彼女は微笑んだ。

「あれは何?」

「時を告げる音です」マヤは言った。「夕食の時間が過ぎ、就寝の時間に向かう合図です……。新王妃としてのあなたの務めは、王の入浴と着替えをお手伝いすることです」

私は片眉を上げた。「あんたは……私に、自分の二倍もでかい男の着替えをさせようっていうの? 会ったこともない男の? 王に対して、ずいぶんと不用心なんじゃないか」

マヤはくすりと笑った。「それがあなたの務めですから」

「私が彼を殺すかもしれないぞ」

マヤは凍りついた。「お願いですから……そのような冗談は」

「どうして心配しないんだ?」私は尋ねた。「魔法の炎の壁を無理やり通り抜けさせて、勝手に称号を押し付けた相手だぞ? 何のために?」

「そ、それは、竜の血筋を絶やすわけにはいきませんので」

私は鼻を鳴らし、親指で背後を指した。「あいつなら喜んでその役目を引き受けそうだったがな」

マヤは視線を落とした。その唇がかすかに笑みの形に動く。「アリ様は……王冠を戴くには、あまりに不適格だと判断されましたので」

私は鼻を鳴らした。「最高だ。頼みもしない敵が増えたわけだ。どうして彼を洗う侍従がいないんだ?」

彼女は笑った。「伝統なのです。ここに長く居れば、いずれ理解できるでしょう」

「疑わしいな」

焼けた死体の臭いを思い出し、私は身震いした。そして、続きの部屋へと歩いていくマヤの背中を見送った。彼女は湯の入ったボウルとタオルを持って戻ってきた。

「失礼いたします。御用がありましたらお呼びください」

彼女は一礼して部屋を出て行った。

「それでは陛下、また明朝に」

「ちょっと待ってよ!」

背後で扉が閉まる。私は駆け寄ってドアノブを引いたが、鍵がかけられていた。一体どういうこと? これが初夜の奇妙な儀式だとでもいうの? 私は身震いし、刻一刻と気分が悪くなっていくのを感じた。視線を落とすと、ベッドサイドテーブルには湯の入ったボウルと手拭いが用意されている。

私は振り返り、その男を見やった。

「馬鹿げてるわ」彼を見下ろして私は言った。「壁を通り抜けさせられた挙句、あなたの体を洗えですって?」

私は鼻で笑った。

「この宮殿には大勢の召使いがいるのに、どうして私が? ということは、あなたはずっと体を洗ってもらってなかったわけ?」

私は乾いた笑い声を上げ、髪をかき上げた。部屋にある豪華な髪飾りを使うには、私の髪は短すぎる。

私は彼を見て眉をひそめた。胸元に汚れのようなシミがある。身を乗り出し、彼のローブの襟を引っ張った。彫像のようにたくましい胸板を目にして、顔がカッと熱くなる。何百年も眠っていたはずの男にしては、随分といい体格をしていた。だがそれ以上に気になったのは、胸の下へと広がるその汚れだ。

首筋の斑点に手を触れ、私は動きを止めた。盛り上がっている。

「私が体を洗わなかったらどうなるの? 一晩中ここに閉じ込められる以外に、何か罰でもあるわけ?」

男は答えない。私はため息をつき、彼の片腕を持ち上げようとして顔をしかめた。重すぎる。動かすなんて無理だ。これでは体を拭けるように動かすことさえできない。私は窓に近寄り開けようと試みたが、びくともしなかった。私は舌打ちをして振り返る。

どうやら、この状況から逃れる術は本当にないらしい。

「何なのよ、もう」私は両手を上げてお手上げのポーズをとった。「世話係を見つけるためだけに、何世紀にもわたって女たちを一人ずつ殺してきたっていうの? 私が男の世話なんてしたいかどうか、誰も聞きもしなかったくせに!」

私は椅子に沈み込み、ベッドの端に足を投げ出した。

「聞こえてないでしょうけど、言わせてもらうわ。こんなのクソ食らえよ」私は毒づいた。「見ず知らずの男の体を洗うくらいなら、いっそこのボウルの水を頭からぶっかけてやりたい気分だわ」

私は鼻を鳴らし、ベッドの方へ身を乗り出した。

「……嘘よ。そんなことしない。それは虐待になっちゃうし、そもそもあなたはずっと眠っていたんだから、この『試練』とやらを始めた張本人じゃないでしょうしね」

私はため息をつくと、タオルを手に取り、ボウルの湯に浸した。そして彼の首筋をタオルで拭う。首のあざのようなものは取れなかったが、深い闇の中で赤い光を帯びて鈍く輝いた。

その時、私はそれが鱗(うろこ)であることに気づいた。顔が熱くなり、視線が彼の剥き出しの胸へと流れる。間違いなく鱗だ。最悪な状況だけど、私は彼の首と顔を拭き終えた。肌を拭うたびに、泥のような黒い何かが剥がれ落ちていく。

どうやら本当に、長い間体を洗っていなかったようだ。私は胸を拭くために、彼のはだけたローブを少し広げた。胃のあたりがキュッとなり、唇を噛む。肉親以外の男性にここまで近づいたことなんて、一度もなかった。彼が病んでいることは分かっているけれど、それでも動揺は収まらない。彼は、美しかったのだ。

私は体を起こし、彼の胸の反対側に手を伸ばした。バランスを取ろうとして、つい彼の下腹部に手をついてしまう。私は慌ててローブの帯を握りしめた。その瞬間、大きく温かい手が私の手首をガシリと掴んだ。悲鳴を上げる暇も、剣を抜く隙もなく、私は前方へと引き寄せられ、ベッドの上にごろりと転がされた。もう一方の手が私の口を塞ぎ、鋭利な刃物が胸元に突きつけられる。

私を見下ろす彼の瞳はまるで黒いオパールのようで、細められたその奥には炎のような光が宿っていた。

「声を出すな。殺すぞ」

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