第3章 昼夜が逆転する時空
「空間、大きくなってないね!」
渡辺千咲は少しがっかりした様子で言った。
「きっとエネルギーが足りないのよ!もっとたくさん吸収しないと」
「晶珠はちゃんと渡すから」
中島暁が付け加える。
空間は大きくならなかったけれど、朝食を抜いても力がみなぎっているのを確かに感じていた。
それに、クローゼットの鏡に映る自分の顔を見ると、目の下のクマが少し薄くなっているような?
美白効果まであるってこと?ただ、この匂いだけはどうにも臭すぎるけど!
そう思うと、彼は晶珠をくれたのだから、朝食を用意してあげなければと気づいた。
渡辺千咲は急いで階下へ降り、キッチンへと走る。この時間、両親はもう畑仕事に出かけている。
だが、鍋の中には彼女のために朝食が残されていた。大きな肉まんが数個、まだ鍋の中で温かいままだ。
これは自家製の豚肉を使っていて、とても香ばしい。彼女は一つ残し、大きな肉まんを二つ、空間にしまった。
残るは米や小麦粉、油だ。これらを一度に全部持っていってしまえば、両親が見つけたときに家に泥棒が入ったと思うだろう。
中島暁は市街地へ突入し、店を探そうと考えていた。しかし、すでに日は暮れており、早く安全な場所を見つけなければならない。どこかの住宅地を見つけ、家の中を探せば、一つや二つは金のアクセサリーくらいあるはずだ。
彼と渡辺千咲のいる時空は、ちょうど昼夜が逆転している。
どうやら時差があるらしい。
中島暁と高橋良介は、まず古びたアパートを見つけ、ゾンビを二体始末した。背中の傷が引きつり、また裂けそうだ。
彼らはとある社宅に隠れた。部屋の中は埃っぽく、壁には蜘蛛が這っている。
室内にはゾンビの腐乱死体もあったが、二人とも既に見慣れていた。
夜が静かに訪れ、ゾンビたちが蠢き始める。
外の咆哮が次々と聞こえてくる中、中島暁は死体を踏みつけ、その体から金のネックレスを外した。
「中島さん!そんなボロい金の鎖なんか持ってどうするんですか?」
高橋良介は理解できないといった顔で中島暁を見た。
金に何の価値がある?目の前に捨てられていても邪魔なだけだ。
続いて高橋良介が見ていると、中島暁はこの部屋で寝室へと直行した。何かを探しているようだ。
「高橋良介、普通、家の金目の物ってどこに置く?」
「金目の物?金なんて何の役に立つんですか!」
高橋良介は彼を白けた目つきで見た。金が飯になるのか?それとも何だと言うのだ!
中島さんは頭でもおかしくなったのだろうか?食料をどこに隠すかと聞くならまだ理解できるが。
高橋良介はキッチンへと直行した。案の定、食べ物は腐っており、冷蔵庫を開けると悪臭が立ち込め、中には死んだ変異ネズミが数匹いた。
高橋良介は眉をひそめる。この家は缶詰の一つも買っていなかったのか。それならもう少し長持ちしただろうに。
中島暁は空間から大きな肉まんを一つ取り出した。渡辺千咲が先ほど入れたばかりのものだ。
鍋から取り出したばかりの、湯気が立つ熱々の大きな肉まん。
高橋良介は香ばしい匂いに誘われてやってきた。
すでに涎を垂らしており、どれだけ目を見開いても、今の衝撃的な気持ちは表現しきれない。
「金目の物はどこに隠してあると思う?」
高橋良介はごくりと唾を飲み込み、中島暁が手に持った大きな肉まんを一口かじるのを見る。肉汁が溢れ出していた。
彼の頭はフリーズしている。この肉まんを中島暁はどこから手に入れたんだ?
「さっき晶珠で買ったんだ」と中島暁は言った。
「どこで買ったんですか!俺も買いたい!」高橋良介は興奮して言った。
こんな時代に、誰がそんな馬鹿なことをする?役に立たない金で食料と交換するなんて。頭がおかしいのか?
金で買う、か。大抵の人間は金を戸棚にでも隠すだろうか?
高橋良介は行動を開始した。金を見つけなければ!以前はこんな物を踏むと足が痛いと邪魔に思い、蹴り飛ばしていた。
今や彼は戸棚を直接解体し始めた。ただ一つの金を見つけるために。
「この家、こんなに貧乏なのか?」
ついに戸棚を壊すと、一つのアクセサリーケースが見つかった。中には金の腕輪、金の指輪、金のネックレスが入っている。結婚の時にでも買ったものだろうか?
「ほら、兄貴!肉まん一つくれませんか!もうよだれで死にそうです!」
「今、肉まんを一口食わせてくれるなら、死んでもいい!」
彼はもう、美味しい食べ物の味すら思い出せなくなっていた。腹が減っている時には草すら食べられないのだ。
一日二日食事にありつけないなど、ごく当たり前のことだった。
中島暁も惜しむことはなかった。彼と高橋良介はかつて生死を共にした戦友であり、今もこの終末世界で支え合う兄弟だ。
彼は空間からもう一つの肉まんを取り出した。渡辺千咲は全部で二つしか入れてくれていなかった。
中島暁は金をすべて空間にしまう。向こう側でもすぐに受け取れるはずだ。
高橋良介は肉まんを手に取った。その手はあまり綺麗ではなかったが、彼は肉まんの香りを嗅ぐ。
目頭が熱くなってきた。
「肉まんだ!でっかい肉まんだ!俺は幻覚でも見てるのか!」
高橋良介は目を赤くした。どれくらいぶりだ!どれくらいぶりだろう!
まともな食べ物を一口も食べていなかったのだ!
高橋良介はかぶりつこうとしたが、基地で期限切れのカビが生えた食べ物を食べ、さらには樹皮をかじっている妻子のことを思い出した。
彼は必死に唾を飲み込み、食べたい気持ちを抑え込む。
「持って帰って息子に食わせないと」
高橋良介は宝物のようにこの大きな肉まんを抱え、何かでしっかり包まなければと考えていた。
彼は鼻を近づけ、肉まんの香りを何度も吸い込むだけで満足しようとした。
「お前が食え。金を見つけさえすれば、金目の物を見つけさえすれば、こういう物は手に入る」中島暁は確信を込めて言った。
あの時空の少女は金がないが、食料は買える。彼のこの世界には食料も水もないが、金は至る所にある。
交換するのに十分な物があればいい。
あの少女が彼の言うことを聞いて、晶珠を吸収したかどうかは分からないが。
「探すぞ!明日、ショッピングモールに行くんだ。そこに金製品の店がある!根こそぎいただいてやろう!」
高橋良介は今や、まるで覚醒剤でも打ったかのように興奮していた。
中島暁は首を振る。空間はそんなに大きくない。そんなにたくさんは収納できない。
「食え。食料はまた手に入る!」と中島暁は言った。
「またこんな大きな肉まんが手に入るんですか?」
高橋良介はやはり惜しくてたまらない。もったいなくてたまらないのだ。
これは大きな肉まんなのだぞ!今どきどこで肉が食える?動物たちは皆変異してしまい、肉は緑色で毒があるというのに!
「麻辣湯も、焼肉も、米もある」中島暁はあの甘い声を思い出しながら言った。
「やめてください、よだれが床に落ちそうです!」
「今すぐ飛び出して金を探したい」
高橋良介は中島暁がどんな奇妙な異能に目覚めたのかは分からないが、食料があるのならあれこれ聞く必要はない。
この終末世界になって、皆が次々と異能を発現させたが、中島暁だけは違った。しかし、彼の戦闘力は高い。元兵王は伊達じゃないのだ。
もっとも、皆が異能を発現させても、何の役にも立たなかった。食料に変えられるわけではないのだから。
「外は暗い。ゾンビの活動が活発で、少しでも音を立てれば見つかる可能性がある。今出て行くのは死にに行くようなもんだ」中島暁は呆れて言った。
高橋良介は中島暁の言葉を聞き、急いで金を探しに行きたい気持ちを抑え込んだ。
この大きな肉まんが胃に収まると、まるで彼の味蕾が開かれたかのようだ。もっと食べたい!まだ食べたい!
男は元々大食いな上、終末世界で彼らの身体は変異し、より多くのエネルギーを必要としていた。しかし、食料がないのだ。空腹になればなるほど、身体能力は低下していく。
「俺たちに希望ができたってことですよね?食料と水があれば、子供たちも、俺たちも、みんな生き延びられるってことですよね?」
