第5章

鶴見凛子の家で一ヶ月ほど療養した後、私は職場への復帰を決めた。別れの際、凛子は心配そうな顔で私を見つめた。

「本当に、もう少し休まなくて大丈夫?」

「ええ、大丈夫」

私は淡々と答える。

「仕事が一番の癒やしになるわ」

晴空ビジネスビルへと戻ってきた感覚は、何とも不思議なものだった。かつて高橋奏と共に奮闘したこの場所も、今では私一人。もう恋愛や円満な結婚に期待することはなく、仕事に全身全霊を捧げることが私の避難港となっていた。毎日朝早くから夜遅くまで働き、東京タワーの灯りが消えても、私のオフィスの明かりは煌々と灯っている。

その日の午後、給湯室へ水を取りに行くと、何人かの親...

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