第10章
銀座のオフィスビルの前に立つと、秋風が私の髪先を揺らした。
五時半の東京は、すでに空が薄暗くなり、ネオンが一つ、また一つと灯り始める。
遠くから、岩崎誠の車がゆっくりと近づき、私の目の前で停まった。
窓が下ろされ、彼の視線が私に注がれる。いつものような鋭さはなく、見慣れない柔らかさが宿っていた。
「乗れよ。家まで送る」
私は一瞬、躊躇した。
結局、私はドアを開け、儀礼的に車内へと乗り込んだ。
いずれにせよ、いくつかの言葉には、決着をつけなければならないのだから。
車内にはセブンスターの匂いが、革のシートの香りと混じり合って漂っている。岩崎誠は黙ってハンドルを握...
ログインして続きを読む
チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
7. 第7章
8. 第8章
9. 第9章
10. 第10章
11. 第11章
12. 第12章
13. 第13章
縮小
拡大
