第207章

社長の怒りを押し殺したような声を聞き、西田秘書は恐る恐る尋ねた。

「あの……まさか、奥様は妊娠されていなかったのですか?」

 しかし、昨日のトイレでの奥様の様子は、西田秘書の姉がつわりで苦しんでいた時とそっくりだった。社長が結婚してしばらく経つし、間違いはないはずだ。

 未だに信じられないといった顔をしている西田秘書を見て、碧井天川は説明するのも億劫になった。

「今から、私の前で妊娠の話は一切するな」

 この妊娠騒動という誤解のせいで、彼は月(つき)と二日間も冷戦状態になり、彼女に散々涙を流させてしまったのだ。この話題はもう終わらせたかった。

「は、はい。承知いたしました」

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