第30章

 碧井天川は家に長くは留まらず、ウォークインクローゼットで着替えるとすぐに出て行った。

 藍原華月もあえて彼に行き先を訊こうとはしなかった。二人の関係は、互いに干渉し合うほど親密ではないからだ。

 夕食を済ませると、藍原華月は早々にベッドに入った。

 深夜、隣から聞こえる押し殺したような荒い息遣いに、ふと目が覚める。華月が慌ててサイドランプをつけると、いつの間にか帰宅していた碧井天川が隣に横たわっていた。

 彼は大きな体を丸め、左手で胃のあたりを強く押さえている。顔面は蒼白で、顔には痛みに耐える苦悶の色が浮かんでいた。

 漂う微かなアルコール臭。酒を飲んだらしい。

 藍原華月は眉...

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