第58章

碧井天川は冷ややかな視線を彼に投げかけると、無言のまま車に乗り込んだ。

「叔父さん、待ってよ! 置いてかないでくれよ!」

 走り去る車の背中に向かって、碧井奏は叫んだ。

 しかし、残されたのは虚しく漂う排気ガスだけだった。

 天川は帰宅せず、会社へと車を走らせた。

 オフィスに籠もっても、頭の中を占めるのは藍原華月と碧井奏のことばかりだ。二人が一年以上も「付き合っていた」という事実が、思考を埋め尽くす。

 まさか、甥の元恋人を妻にしてしまうとは。なんと皮肉な巡り合わせか。

 どうりで、二人が初めて顔を合わせた時、隠しきれない驚きと喜びがその目に宿っていたわけだ。特に華月の奏に対...

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