第62章

唇が触れ合った瞬間、藍原華月の心という静寂な湖面に小石が投じられたかのように、細やかな波紋が広がっていった。

 彼女は睫毛を震わせ、やがてゆっくりと瞼を閉じると、彼の口づけに身を委ねた。

 吐息が絡み合う中、碧井天川の大きな手が彼女のうなじを優しく包み込む。その熱が肌を伝って這い上がってきた。

 鼻先を掠めるのは、彼特有の香り。藍原華月は顎を上げ、その口づけに応えた。

 呼吸が続かなくなりかけた頃、彼はようやく名残惜しそうに唇を離した。その漆黒の瞳には、濃厚な欲望が渦巻いている。

 あまりに灼熱した視線に、藍原華月は息を乱しながら顔を背けた。彼の目を見つめ返す勇気がない。

「動く...

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