第64章

碧井天川が帰宅したのは、すでに日付が変わった深夜のことだった。

 部屋にはフロアランプの淡い明かりだけが灯っている。

 藍原華月はソファの肘掛けに寄りかかるようにして、いつの間にか眠りに落ちていた。

 暖かなオレンジ色の光が彼女の横顔を照らし、長い睫毛が目の下へ扇形の影を落としている。その影が、彼女の穏やかな寝息に合わせて微かに震えていた。

 天川は愛おしげに彼女を見つめると、ベッドへ運ぼうとそっと体を抱き上げた。

 その振動で、華月がうっすらと目を開ける。

「あなた……お帰りなさい」

 寝ぼけまなこの彼女が発した「あなた」という甘い響きに、天川の心臓がトクンと跳ねた。口元に、...

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