第84章

「お前は嫁を庇ってばかりだな。わざとじゃないと言っても、わしは余計に針を刺されるんだぞ。少しは心配したらどうだ」

 碧井(あおい)は不満げに天川(てんかわ)を睨んだ。この息子ときたら、頭の中は嫁のことばかりで、父親である自分がひどい目に遭っていることなど微塵も考えていないようだ。

「たかが注射一本だろ。すぐ終わる」

 天川は表情一つ変えず、背後の看護師に軽く手を振った。

「もう一度頼む」

 看護師は指示に従い、手早く碧井に針を刺し直した。

 手の甲の針を見つめながら、碧井は心の中で固く誓った。もう二度とこの嫁に看護などさせるものか。これ以上任せていたら、次は何をしでかすか分かった...

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