第55章

「実は、この子は……私と綾波年の娘なんだ!」

綾波年。

その名前を聞いた瞬間、羽川陸の眼鏡の奥の黒い瞳に、一筋の冷たい光が走った。

羽川初美は嘘を並べ立てた。「私と綾波年は高校時代から付き合ってたでしょう、あなたも知ってるはず。大学入試が終わったあの夏休みに、私たち……禁断の果実を味わってしまって、思いがけず妊娠したの。このことを母が知って、中絶するよう迫られたわ。病院に着いたけど、私、怖くなって逃げ出したの。母は優しいから、私の懇願に負けて、この事を隠してくれたわ。あの夏、母との海外旅行を口実に、こっそりこの子を産んだの……でも母の唯一の条件が、綾波年と別れることだった。それから先は...

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