第2章

瀬川葵視点

黒木悠奏が、いかにも高そうな身なりの友人たちを引き連れて歩いてきた。今日の彼は制服を完璧に着こなし、まるで学園の王子様のようだった。金髪のは成宮拓也に違いない。他に何人か、見覚えのない顔もいる。

「昨日の夜、野球バットで俺の帰りを歓迎してくれたんだって?」

彼は私の向かいに腰を下ろし、他の連中が私たちのテーブルを取り囲んだ。カフェ中の視線が、ここに集中する。

「ずいぶん『手厚い』歓迎だな」

顔がカッと熱くなるのを感じたが、必死で平静を装った。

「申し訳ありません。あなただとは知らなかったので」

「だろうな」

金髪の成宮拓也が鼻で笑う。

「こいつ、俺たちの家みたいな場所に本物の強盗が入るなんて思ったんじゃねえの」

他の連中がどっと下品な笑い声を上げた。テーブルの下で、私は拳を握りしめた。

黒木悠奏が手で制すると、その目に読めない光がよぎった。

「拓也、やめとけ。瀬川葵を歓迎してやらないと。なんたって……」

彼は言葉を切り、私の顔をじろりと見渡した。

「俺たちのライフスタイルを体験できるやつなんて、そうそういないんだからな」

「そうよね」

茶髪の女子が口を挟む。

「田舎暮らしから大豪邸なんて、すごい出世じゃない」

顔が燃えるように熱くなり、拳をさらに固く握りしめた。この甘やかされたガキども――

成宮拓也が「偶然」を装ってテーブルにぶつかり、私のトマトスープが盛大に私の上にはねた。

赤い液体がそこら中に飛び散り、私の白いシャツは一瞬にして事件現場と化した。

カフェ全体が一瞬静まり返り、次の瞬間、さらに大きな笑い声に包まれた。

「おっと!」

成宮拓也がわざとらしく甘ったるい声で口元を覆う。

「ごめんなさーい!俺ってば、すっごく不器用でさ」

私はゆっくりと立ち上がった。服からはスープが滴り落ちている。誰もが私の反応を待って、じっと見つめている。何人かはスマホを取り出して録画を始めた。

黒木悠奏は椅子に深くもたれかかり、興味深そうに私を観察している。

私が泣くとでも?逃げ出すとでも?

甘く見ないで。こんなことで簡単に引き下がる私じゃない。

「問題ないわ」

私は冷静に言い、ためらうことなく成宮拓也のオレンジジュースを掴むと、彼の頭にぶちまけた。

オレンジジュースが彼の髪と顔に飛び散り、彼は悲鳴を上げて飛び上がった。

「あら!」

私は彼の口調を真似て、吐き気がするほど甘い声で言った。

「ごめんなさい!私もすっごく『不器用』で」

それから私はくるりと背を向け、呆然とする金持ちのガキどもを置き去りにして歩き出した。

背後で、黒木悠奏の低い笑い声が聞こえた。

「面白い」

でも、これで終わりじゃない。

その夜、私は明日のテストに備えて生物実験室で調べものをしていた。夜も更け、静まり返った校舎にはほとんど誰もいなかった。

その時、男子ロッカールームから声が聞こえてきた。

「成宮拓也、気色の悪い虫の画像を送ってくるのやめろ!」

黒木悠奏の声は震えているように聞こえた。

「俺がそういうの嫌いだって知ってるだろ!」

私は書く手を止め、耳を澄ませた。

「おいおい、お前、ちっちゃいクモごときで本気でビビってんのかよ?」

成宮拓也の声はからかいに満ちていた。

「うるさい!見るからにキモいだけだ!今すぐ消せ!」

黒木悠奏はさらに苛立っているようだ。

「そういうクソみたいなもん送るなって言っただろ?」

「はいはい、消しゃいいんだろ、消せば」

成宮拓也はさらに大声で笑う。

「でもよ、お前の虫嫌いはマジで重症だな。この前なんてゴキブリ見ただけで卒倒しかけてたじゃん」

「あれは別だ!とにかくもう二度と送ってくるな!」

足音が遠ざかり、ロッカールームは再び静寂に包まれた。

私はゆっくりと振り返り、実験室の隅にあるガラス容器に目をやった。その一つには、毛むくじゃらのタランチュラ――生物の授業で使う標本――が収められていた。

このクモは、成宮拓也がスマホで送った写真のどんなものよりもずっと大きい。毛むくじゃらの体、八本の太い脚――間違いなく恐ろしい見た目をしている。

ある計画が、私の頭の中に浮かんだ。

明日は金曜日、バスケの練習日だ。黒木悠奏は着替えのために必ずロッカールームにやってくる。

リスクがあるのは分かっている。でも、やられっぱなしで黙っているなんて、私のプライドが許さない。

金曜の午後、最後の授業中に、私はこっそり生物実験室に忍び込んだ。タランチュラはガラス容器の中でおとなしくしていたが、私の視線に気づいたかのように数歩這いずった。

「ごめんね、ちびちゃん」

私は囁いた。

「でもこれは、正義のためなの」

厚手のグローブをはめ、慎重にクモを小さな箱に移した。思ったよりも協力的で、大して暴れなかった。

次が肝心な部分――男子ロッカールームへの潜入だ。

バスケの練習が始まり、全員が体育館にいるのを見計らってから、静かにロッカールームのドアを開けた。中はがらんとしていて、ロッカーの列が静かに並んでいるだけだった。

黒木悠奏のロッカーを見つけるのは難しくなかった。「黒木」というラベルが貼ってある。私は深呼吸をして、慎重に彼のジムバッグを開けた。

中には清潔なバスケのユニフォーム、高級ブランドの運動靴、そして高価なスポーツドリンクが入っていた。

私はバッグの底に小さな箱を置き、クモが十分なスペースを確保できるようにしてから、素早くその場を離れた。

すべては順調に進んだ。

翌朝、学校中が一つの話題で持ちきりだった――黒木悠奏がロッカールームでクモに驚いて気絶した、と。

私は食堂に座り、心の中でガッツポーズをしながらも、必死で真顔を保とうとしていた。

「聞いた?」

隣の席の女子が興奮した様子で言った。

「昨日、黒木くんがジムバッグを開けたら、すっごくでっかいクモが出てきたんだって!」

「本当?」

もう一人の女子が目を丸くする。

「それで、どうなったの?」

「絶叫して、その場で気絶したのよ!成宮くんが言うには、あんなに怯えた黒木くんは見たことないって」

「へえ、学園のバスケ王子様も、そんなに虫が苦手なんだ」

私は牛乳を飲みながら俯き、笑い出しそうになるのを必死でこらえた。

その時、カフェのドアが乱暴に開かれた。

黒木悠奏が、怒りに燃える目をし、顔をこわばらせて入ってきた。髪は乱れ、制服はしわくちゃで、いつもよりずっとみすぼらしい格好だった。

カフェ中が水を打ったように静まり返り、誰もが彼に注目していた。

彼の視線がカフェをさっと見渡し、やがて私にぴたりと固定された。

心臓の鼓動が速くなるのを感じたが、私は平静を装い、牛乳を飲み続けた。

黒木悠奏はまっすぐ私のテーブルに向かって歩いてくる。静まり返ったカフェに、彼の足音だけが大きく響いた。他の生徒たちは固唾を飲んで、空気中の緊張感を感じ取っている。

彼は私の目の前で止まり、テーブルに両手をついて、私を覗き込むように身をかがめた。その青い瞳の怒りは、今にも燃え上がりそうだ。

「面白いと思ってんのか?」

彼の声は低く、かろうじて怒りを抑えつけているようだった。

私は顔を上げ、無垢な表情を作って見せる。

「何が面白いんですか?」

「とぼけるな、瀬川葵」

彼は歯を食いしばって言った。

「君がやったってことは分かってるんだ」

「何のことか分かりませんけど」

私は肩をすくめた。

「昨日、ロッカールームで何か大変だったそうですね?」

見物していた生徒たちがひそひそと囁き始め、誰もがこのショーの続きを待っていた。

黒木悠奏の表情がさらに険しくなる。

「タランチュラだ、瀬川葵。生物実験室から『いなくなった』一匹。それが偶然だと思うか?」

「新しいおうちが欲しかっただけじゃないですか?」

私は冷静に言った。

「誰だってもっと快適に暮らしたいものでしょう?」

これは明らかに彼の神経に障った。彼の目に何かがひらめき、ゆっくりと体を起こした。

「このゲームは始まったばかりだ」

彼の声は静かだったが、カフェ中に聞こえた。

「ちっぽけなクモ一匹で俺が怖がると思ったか?」

私も立ち上がり、彼を見上げた。彼の方がずっと背が高いけれど、私は一歩も引かなかった。

「じゃあ、確かめてみましょうか」

私は鼻で笑った。

「でも次はバッグの中身を確認した方がいいわよ、『お坊ちゃま』。何が這い出してくるか分からないから」

彼の拳が固く握られ、血管が浮き出た。彼が怒りを抑えようと必死になっているのが見て取れた。

「誰に喧嘩を売ってるか分かってんのか」

彼は一言一言、区切るように言った。

「ええ、よく分かってますよ」

私は恐れることなく睨み返した。

「クモごときで気絶する『臆病者』さんに」

カフェ中から息を呑む音が聞こえた。黒木悠奏にそんな口を利く人は誰もいなかった。

彼の表情はさらに暗くなったが、意外にも、彼はふっと笑みを浮かべた。それは危険な笑みだった。

「いいだろう」

彼は頷いた。

「君がどれだけのプレッシャーに耐えられるか、見ものだな」

私は挑むように顎を上げた。

「望むところよ」

こうして、戦争の火蓋は切られた。

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