第2章

何時間もそうしていたように感じた。私は自室の床に座り込んでいた。

携帯電話の表示は、とっくに午前十一時を過ぎている。そろそろ気合を入れて階下へ行かなければ。これ以上部屋に閉じこもっていたら、悟が起きてきたときに怪しまれてしまう。

冷静に、舞。何事もなかったように振る舞うの。

冷たい水で顔を洗い、新しい服に着替える。感情的に取り乱していた人間ではなく、たった今起きたばかりのように見えるよう努めた。

深呼吸を一つして、階下へと向かった。

キッチンには、真理奈のいつもの朝を思わせる匂いが満ちていた。淹れたてのコーヒーと、彼女が用意していたであろうオーガニックな朝食の香り。家は静まり返っている。彼女はもうヨガスタジオへ出かけた後なのだろう。

私はコーヒーメーカーへ歩み寄る。注ぐ手が微かに震えていた。くそっ、しっかりしなくちゃ。

そのとき、屋根裏部屋の階段を降りてくる足音が聞こえた。重く、不規則な足音。

階段の下に悟が現れた。髪はくしゃくしゃで、昨夜と同じ黒いTシャツを着ている。いかにも寝起きといった風情だ。彼の視線がキッチンをさっと横切り、すぐに私を捉えた。その眼差しに、全身がカッと熱くなる。

「舞?」キッチンにいる私を見て、彼は驚いたようだった。「起きてたのか」

「うん……」私はコーヒーマグを固く握りしめ、内心のパニックを表情に出さないようにした。

彼はキッチンアイランドへ歩み寄り、乱れた髪を指で梳いた。シダーウッドのコロンと、昨夜のアルコールが混じり合う、彼のいつもの匂いが、ゆるやかに私を包む。私の体は、抗う術もなく強張った。

「昨日のことなんだけど……」彼が口を開く。声はまだ眠りから覚めきっていないせいで掠れていた。

私はコーヒーをこぼしそうになった。「昨日のことが、何?」

あの意地悪な笑みが彼の唇に浮かぶ。「君が着てた、あの緑のドレスのこと。綺麗よ」

「ありがとう」私は頬が熱くなるのを感じながら、無理に微笑んだ。

彼を盗み見ると、手首に赤い引っ掻き傷があるのに気づいた。心臓が跳ねる――昨夜、私がつけた傷だ。彼が……私たちが……あの混沌とした瞬間に。

「何見てるんだ?」悟が私の視線に気づいた。

「別に」私はすぐに目を逸らした。

しかし彼はわざと袖をまくり上げ、傷跡がもっと見えるようにした。「これのことか?」

顔が火のように熱くなった。「私……それは……」

「否定するなよ」彼の声は低く、私には読み取れない感情を帯びていた。「昨夜何があったか、俺たちは二人ともわかってる」

何か言い返そうとしたとき、彼のギターバッグからぶら下がっているピンク色のヘアゴムが目に入った。心臓が胃の腑まで落ちていくような感覚がした。

「そのヘアゴム……優奈の?」

悟は私の視線を追い、複雑な表情になった。「舞……」

「やめて。もう……いいから。わかったから」私は立ち上がった。胸が重圧で押し潰されそうだった。

彼も立ち上がり、何か言いたそうにしていたが、私はもう背を向けてその場を去ろうとしていた。

「舞、待ってくれ」彼が後ろから呼び止める。「誤解してる」

「何を誤解してるって言うの?」私は振り返り、声の震えを必死で抑えながら言った。「あなたに彼女がいること?それとも、昨夜の私の行動が馬鹿げてたってこと?」

「馬鹿げてなんかない」彼は私に向かって一歩踏み出した。今まで見たことがないほど真剣な表情で。「昨夜のことは……」

「昨夜は何もなかった」私は彼の言葉を遮った。「私たちは酔ってて、間違いを犯した。それだけよ」

彼は立ち止まり、私の胸を張り裂きそうにさせる表情で私を見つめた。「君がそう思うなら」

私はリビングルームへ逃げ込み、ソファに体を丸めた。しかし数分後、悟が丁寧に作られたアボカドトーストの皿を持ってキッチンの戸口に現れた。

「お気に入りのアボカドトースト、チーズ抜きだ」彼はそう優しく言って、私の方へ歩いてくる。「乳製品ダメだって、覚えてたから」

その食べ物を見つめていると、涙が目に込み上げてきた。彼は私の食の好みを全部覚えていてくれた。アレルギーがあることも、トーストにはほんの少しだけ岩塩をかけるのが好きなことも……。

「ありがとう……そんなに優しくしなくていいのに」私の声はかろうじて囁きになった。

「君に優しくしたいんだ」彼は私の隣に座り、コーヒーテーブルに皿を置いた。「ずっと.......」

彼がトーストを手渡してくれたとき、私たちの指が触れ合った。あの電気が走るような感覚が再び体を駆け巡り、昨夜、彼の手がどんな風に私の体をなぞったかを思い出させる……。

私は勢いよく手を引いた。「悟、私たち、ダメだよ……」

「何がダメなんだ?」彼は身を寄せ、私にしか聞こえない低い声で囁いた。「自分の気持ちに正直になることが?」

彼の瞳を覗き込むと、そこには私には理解できないあまりにも多くの感情が渦巻いていた。愛情?独占欲?それとも、ただのアルコールが抜けていないせいの一時的な衝動?

「優奈からのメッセージ、見たの」私は静かに言った。「昨夜は最高だった、またいつ会える?って」

彼の表情が変わった。「それは君が思ってるようなものじゃない」

「じゃあ何なの?」私は立ち上がった。食べ物が床に落ちる。「教えてよ、優奈があなたにとって何なのか。昨夜のことが、あなたにとってどういう意味だったのか」

しかし彼は答えなかった。ただ、痛みと葛藤と、そして私には読み解けない他の何かが入り混じった瞳で、私を見つめるだけだった。

私は震える手で、床に落ちた食べ物を拾おうとかがみ込んだ。「ごめん、作ってくれた朝食、落としちゃった」

「いいよ」彼も隣にかがみ込み、手伝ってくれる。私たちの顔がすぐ近くにあった。「舞、聞いてくれ……」

「言わないで」私は目を閉じた。「お願いだから、言わないで」

彼が何を言ったとしても、すべてがもっと複雑になるだけだとわかっていたから。そして、私はこれ以上の混沌には耐えられなかった。

健一と真理奈が帰ってきたときには、私たちはすべてを片付けていた。私はソファに座って読書をするふりをし、悟はギターのチューニングをしている。すべてが、普段通りに見えた。

けれど、時折、彼の視線が私の上に注がれるのを感じていた。昨夜とまったく同じように。そして、彼のギターバッグからは今もあのピンク色のヘアゴムがぶら下がり、優奈の存在を私に突きつけていた。

私が彼の妹でしかありえないという事実を、突きつけていた。

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